DeepLの衝撃と英語教育再定義必要性について
DeepL←こいつ,ヤバくね?という記事です。
DeepLとは,2017年8月に開始された機械翻訳サービス。
つかってみたけど,衝撃的だった。他の英語の先生はどういう風にこれを受け止めているのだろうと思って,ブログを書いてみた。
もちろんもうちょっと前から,「機械翻訳の精度向上」という話は出ていた。
1年半前のこの記事でも,Google翻訳の精度が上がったら,英語の先生の役割は?みたいなことは書いていた。
thunder0512.hatenablog.com
ただ今回DeepLに出会って知ったことは,それとはちょっと比較にならないインパクトがあったように思う。
論より証拠,実際にDeepLの性能を見ていこう。
①小説の冒頭部分
Penguin Readers: Level 2 OF MICE AND MEN (Penguin Readers (Graded Readers))
- 作者:Steinbeck, John
- 発売日: 2008/02/26
- メディア: ペーパーバック
場面設定の,冒頭の一部分。
Near the town of Soledad, the Salinas River runs next to some small mountains. The river is full and green and the water is warm from the strong sun. Across the river from the mountains is a line of tall trees and in the trees is a small pool.
DeepL訳。
ソレダッドの町の近くには、いくつかの小さな山の横をサリナス川が流れています。 川の水量は豊富で緑が多く、強い日差しを浴びて水が温かくなっています。 山から川を挟んで対岸には背の高い木々が立ち並び、木々の中には小さなプールがあります。
Google翻訳はこちら↓
ソレダドの町の近くにあるサリナス川は、いくつかの小さな山々の横に流れています。 川は緑いっぱいで、強い日差しから水は暖かいです。 山から川を渡って背の高い木々が並んでいます。木々の中に小さなプールがあります。
full and greenとかwarm from the sunとかの訳ね。poolがプールなのは気になるけど,プールである可能性もあるにはあるから,誤訳とまで言ってしまうのはかわいそうだろう。
②慣用表現の訳し分け
たとえば「胸を張る」という表現。
胸を張ってそのまま30秒キープ
は,
Keep your chest up and hold it for 30 seconds.
と訳されるし,
全力を尽くした結果だ。胸を張って帰ろう。
なら,
It's the result of everything we've done. Let's go home with a big heart.
と訳される。胸を張るが文字通り「胸部を反り返らせる」という意味なのか,それとも「気落ちせず」という慣用的な意味なのか,明らかに前後の文脈から訳し分けている。
③『誤訳の構造』
我らが中原先生の本。プロの翻訳家の訳し間違いを集めている。
45.
"You thought I was very ladylike, didn't you?"
"I thought no such thing. You didn't fool me."
"私がとてもお淑やかだと思ったでしょう?"
"そんなことはないと思っていた "騙されなかった"
" "の位置は気になるが,ポイントであるfool meはきちんと訳せている。なにより,Google翻訳だと「あなたは私がとても上品だと思いましたね?」と女性のセリフとして訳している感じはしないが,DeepLはそこもうまくやっている。またGoogle翻訳だと「あなたは私をだましませんでした。」となり,これも誤訳。
46.
Somebody said, "Hush," and a clergyman began a prayer which I believe he must have composed himself. I had never heard it at any other funeral service, and I have attended a great number in my time.
誰かが "Hush "と言って 聖職者が祈りを始めた 彼が自作したに違いない 私は他の葬儀では聞いたことがなかったし、私はこれまでに多くの葬儀に参列してきた。
こちらもHushは気になるが,このcompose himselfが,「自分の気持ちを落ち着ける」というVOではなく,「自分で作成した」というVMであることがポイントで,そこは抑えている。
ちなみにGoogle訳。ちょっと比べるのもかわいそうだな。。汗
誰かが「静けさ」と言って、聖職者が祈りを始めました、私は彼が彼自身を構成したに違いないと思います。 私は他の葬儀でそれを聞いたことがありませんでした、そして私は私の時間の間にたくさんに出席しました。
④以前記事で書いた難しめの英文
thunder0512.hatenablog.com
以前書いた↑の記事にて怒りを感じた英文。
As there are persons in the world of so mean and abject a spirit, that they rather choose to owe their subsistence to the charity of others, than by industry to acquire some property of their own; so there are many more who may be called mere beggars with regard to opinions.
世の中には、自分の財産を手に入れるために努力するよりも、むしろ他人の施しで生活の糧を得ようとするような、卑劣で忌まわしい精神の人たちがいるように、意見に関しては単なる物乞いと呼ばれる人たちがもっとたくさんいるのです。
ちなみに上の記事で僕が訳したのはこちら↓。さすがにGoogle翻訳は支離滅裂だったので割愛。
世の中には非常に卑しい(mean),ひどくザンネンな(abject)根性の持ち主がいて,自分の生活を他人からの施しで賄おうと決めてしまって,自助努力でもって(by industry)何がしかの財産を自分のものにしようとは考えない人がいる。なので,考え(opinions)に関してはもっと多くの人が,まったくもって乞食と呼ばれうる存在なのである。
自分がこの訳をつくるのに費やした時間や労力を考えると,わずか数秒でこのような訳が出されてしまうことに驚きとなんだか割り切れない気持ちを感じずにはいられなかった。
⑤自分のTwitterから
DeepL翻訳 https://t.co/bQ4i5xEpjX いやー,これ,すごい。こうした右肩上がりの自動翻訳技術に,僕ら英語教員はどう立ち向かうのか。個人的には,立ち向かうよりも,仲良くなりつつ,職業的意義を再定義していくしかないのかな,とか思ってはいる。
— さんだー (@thunder0512) 2020年3月26日
DeepLの翻訳→ "Wow, this is amazing. How do we, as English teachers, deal with this ever-growing automated translation technology?Personally, I think that we should redefine the meaning of our profession while getting along with each other rather than confronting each other."
— さんだー (@thunder0512) 2020年3月26日
each otherだけ変な感じはするが,これはまあ自分の原文が不親切だよね。
— さんだー (@thunder0512) 2020年3月26日
試しに「こういう技術に立ち向かうよりも,こういう技術と仲良くなりつつ」と補ったら,"while getting along with these technologies, rather than confronting them."と完璧に訳してみせた。
— さんだー (@thunder0512) 2020年3月26日
⑥他の人のTwitterから
もう一つ気づいた。A few further attempts failed.を「いくつかの更なる試みは失敗し」とせず「試みは何度か失敗し」と副詞的に訳している。自然な日本語。と呼ぶのは簡単だけどそうではなく日本語を日本語として理解している感じがする。これはすごい。 https://t.co/VXXREz5sCI
— tadashi oya homo qui cavet felem (@mata_che_nuota) 2020年3月24日
Deep Lすごすぎでしょ。英文解体新書,星4つの英文(p73)をかなりの精度で和訳している。 pic.twitter.com/meGHgrypX7
— takeondo (@takeondo_k) 2020年4月5日
じゃあ,どうする?
何か定まった結論があるわけでは全然なくって。
でもさ,YouTubeの自動生成の字幕よりリスニングができる英語の先生も正直少ないと思うし,このレベルの翻訳ができる英語の先生もだいぶ少ないと思うんだよね。
今自分の頭の中には「メタ言語能力」とか「複言語主義的態度」みたいなものがキーワードとして浮かんではいる。浮かんではいるけれど,それがどんなものなのか,子どもの中に具体的にどのように現れてくるものなのか,恥ずかしながらちゃんと描けていない。
でも,新学期を目の前に(そう,本当に目前!),いい気づきを得られたなと思う
。走って行きたい方向性が,ちょっとだけ,見えてきたような感じというか。
とはいえ,「いやいや君,それは先走りってもんだよ」っていう意見もあるだろうなと思うから,何か他の人と話すきっかけになったらいいなーとか思って一旦切り上げる。心身ともに,みなさまご自愛ください。