さんだーさんだ!(ブログ版)

旧「◯◯な英語教員に、おれはなる!!!!」 - 大学院を終え、2015年度より中高英語教員になりました。

DeepLの衝撃と英語教育再定義必要性について

DeepL←こいつ,ヤバくね?という記事です。

DeepLとは,2017年8月に開始された機械翻訳サービス。
つかってみたけど,衝撃的だった。他の英語の先生はどういう風にこれを受け止めているのだろうと思って,ブログを書いてみた。

もちろんもうちょっと前から,「機械翻訳の精度向上」という話は出ていた。
1年半前のこの記事でも,Google翻訳の精度が上がったら,英語の先生の役割は?みたいなことは書いていた。
thunder0512.hatenablog.com

ただ今回DeepLに出会って知ったことは,それとはちょっと比較にならないインパクトがあったように思う。
論より証拠,実際にDeepLの性能を見ていこう。

①小説の冒頭部分

Penguin Readers: Level 2 OF MICE AND MEN (Penguin Readers (Graded Readers))

Penguin Readers: Level 2 OF MICE AND MEN (Penguin Readers (Graded Readers))

  • 作者:Steinbeck, John
  • 発売日: 2008/02/26
  • メディア: ペーパーバック
風越学園にも英語多読は導入しようとしていて,そのシリーズの中の一冊を読んでいた。
場面設定の,冒頭の一部分。

Near the town of Soledad, the Salinas River runs next to some small mountains. The river is full and green and the water is warm from the strong sun. Across the river from the mountains is a line of tall trees and in the trees is a small pool.

DeepL訳。

レダッドの町の近くには、いくつかの小さな山の横をサリナス川が流れています。 川の水量は豊富で緑が多く、強い日差しを浴びて水が温かくなっています。 山から川を挟んで対岸には背の高い木々が立ち並び、木々の中には小さなプールがあります。

Google翻訳はこちら↓

レダドの町の近くにあるサリナス川は、いくつかの小さな山々の横に流れています。 川は緑いっぱいで、強い日差しから水は暖かいです。 山から川を渡って背の高い木々が並んでいます。木々の中に小さなプールがあります。

full and greenとかwarm from the sunとかの訳ね。poolがプールなのは気になるけど,プールである可能性もあるにはあるから,誤訳とまで言ってしまうのはかわいそうだろう。

②慣用表現の訳し分け

たとえば「胸を張る」という表現。

胸を張ってそのまま30秒キープ

は,

Keep your chest up and hold it for 30 seconds.

と訳されるし,

全力を尽くした結果だ。胸を張って帰ろう。

なら,

It's the result of everything we've done. Let's go home with a big heart.

と訳される。胸を張るが文字通り「胸部を反り返らせる」という意味なのか,それとも「気落ちせず」という慣用的な意味なのか,明らかに前後の文脈から訳し分けている。

③『誤訳の構造』

誤訳の構造

誤訳の構造

我らが中原先生の本。プロの翻訳家の訳し間違いを集めている。

45.
"You thought I was very ladylike, didn't you?"
"I thought no such thing. You didn't fool me."

"私がとてもお淑やかだと思ったでしょう?"
"そんなことはないと思っていた "騙されなかった"

" "の位置は気になるが,ポイントであるfool meはきちんと訳せている。なにより,Google翻訳だと「あなたは私がとても上品だと思いましたね?」と女性のセリフとして訳している感じはしないが,DeepLはそこもうまくやっている。またGoogle翻訳だと「あなたは私をだましませんでした。」となり,これも誤訳。

46.
Somebody said, "Hush," and a clergyman began a prayer which I believe he must have composed himself. I had never heard it at any other funeral service, and I have attended a great number in my time.

誰かが "Hush "と言って 聖職者が祈りを始めた 彼が自作したに違いない 私は他の葬儀では聞いたことがなかったし、私はこれまでに多くの葬儀に参列してきた。

こちらもHushは気になるが,このcompose himselfが,「自分の気持ちを落ち着ける」というVOではなく,「自分で作成した」というVMであることがポイントで,そこは抑えている。

ちなみにGoogle訳。ちょっと比べるのもかわいそうだな。。汗

誰かが「静けさ」と言って、聖職者が祈りを始めました、私は彼が彼自身を構成したに違いないと思います。 私は他の葬儀でそれを聞いたことがありませんでした、そして私は私の時間の間にたくさんに出席しました。

④以前記事で書いた難しめの英文

thunder0512.hatenablog.com
以前書いた↑の記事にて怒りを感じた英文。

As there are persons in the world of so mean and abject a spirit, that they rather choose to owe their subsistence to the charity of others, than by industry to acquire some property of their own; so there are many more who may be called mere beggars with regard to opinions.

世の中には、自分の財産を手に入れるために努力するよりも、むしろ他人の施しで生活の糧を得ようとするような、卑劣で忌まわしい精神の人たちがいるように、意見に関しては単なる物乞いと呼ばれる人たちがもっとたくさんいるのです。

ちなみに上の記事で僕が訳したのはこちら↓。さすがにGoogle翻訳は支離滅裂だったので割愛。

世の中には非常に卑しい(mean),ひどくザンネンな(abject)根性の持ち主がいて,自分の生活を他人からの施しで賄おうと決めてしまって,自助努力でもって(by industry)何がしかの財産を自分のものにしようとは考えない人がいる。なので,考え(opinions)に関してはもっと多くの人が,まったくもって乞食と呼ばれうる存在なのである。

自分がこの訳をつくるのに費やした時間や労力を考えると,わずか数秒でこのような訳が出されてしまうことに驚きとなんだか割り切れない気持ちを感じずにはいられなかった。

⑤自分のTwitterから



⑥他の人のTwitterから




じゃあ,どうする?

何か定まった結論があるわけでは全然なくって。
でもさ,YouTubeの自動生成の字幕よりリスニングができる英語の先生も正直少ないと思うし,このレベルの翻訳ができる英語の先生もだいぶ少ないと思うんだよね。
今自分の頭の中には「メタ言語能力」とか「複言語主義的態度」みたいなものがキーワードとして浮かんではいる。浮かんではいるけれど,それがどんなものなのか,子どもの中に具体的にどのように現れてくるものなのか,恥ずかしながらちゃんと描けていない。
でも,新学期を目の前に(そう,本当に目前!),いい気づきを得られたなと思う
。走って行きたい方向性が,ちょっとだけ,見えてきたような感じというか。

とはいえ,「いやいや君,それは先走りってもんだよ」っていう意見もあるだろうなと思うから,何か他の人と話すきっかけになったらいいなーとか思って一旦切り上げる。心身ともに,みなさまご自愛ください。

もと暗し

 十二月も中旬にさしかかったその日は、夕方から一気に冷え込み、私は寒さに震えながら歩いて家路についていた。国道から脇に入った道路からさらに外れて、川を渡る小さな橋につながる小道は、街灯がまったくなく、日が落ちると足元もおぼつかない。狭い車道の片側に申し訳程度についている細い歩道を歩いていると、橋の手前のカーブに、いかにも地元の住人といった感じの初老の男が、背中をこちらに向けて立っていた。
 男は何やらじっと足元を見つめていた。横に並ぶには狭い道だったので、私は背中越しにたずねた。「どうされたんですか?」
「ここ、あるんかね、道」男は私に対してというよりは、ひとり言のような調子でそうつぶやいた。意味が分からず、私は再び聞いた。「どういうことですか?」
「ここに、地面はあるんかね」自分の足元の一歩先を指さしながら、男はそうくり返した。
 そこはたしかに真っ暗で、目をこらしても、墨で塗りつぶされたような黒が広がっているだけだった。「いや…あるでしょう」いぶかしさがつい声ににじんでしまった。
「どうして分かるんかね。あんた地面が見えるんか」男は初めて顔を上げ、少し大きな声で私に言った。
「いや、真っ暗で何も見えないですけど」男の勢いに、思わず口ごもってしまう。
「ほらな、わしにも見えん。わしにはどうも、この先に地面があるように思えんのだ。穴かもしれんじゃないか。だから、よくよく見ようとしているんじゃよ」
「だって朝わたしが通った時には、道はあったんですよ。地面が急に消えるわけないじゃないですか」男の不可解な言い分に、私もだんだんじれてきた。
「わしも当然さっきまでそう思っとったわ。じゃがな、ついさっき―」さらに食い下がる男にいらだち、私は男をさえぎって言った。「そんなにぐずぐず言うなら―」
 その時、後ろから車のやってくる音がした。私は思わずふり返り、ヘッドライトとまともに目が合ってしまった。反射的にぎゅっと目をつぶっている間に、車は静かに通り過ぎていった。
「そんなにぐずぐず言うなら、私が先に行きますよ」言葉を続けながら目を開け、私は男の方を向いた。
 だがそこに、男はいなかった。狭いが見通しの悪い道ではない。それなのに、辺りを見渡しても、男は文字通り影も形も見えなかった。どこに消えたのだ。さっきまで男が立っていたはずの地面は、そんな私の動揺を飲み込むかのごとく、ただただ真っ黒だった。まさか、そんなバカな。私の目は、いやでもその闇に吸い込まれていく。
「どうされたんですか?」いつの間にやって来たのか、背後からいぶかしそうな女性の声がした。その声は、どこか遠くから響いてくるように感じられた。
「ここ、道、あるのかな」私は目を伏せたまま、そうひとりごちた。



同僚間で読み合うための締め切りに間に合わせようと焦って書いたけど、途中でオチが思いついたあたりからノッてきて、何回か音読しながら没頭して書いた。使う言葉とか句読点とかまで考えるのは楽しい。(毎度やるのはきっとしんどいけどw)
今日の読み合いでは同僚たちからコメントもらえて、タイトルを変えることの効果とか、自分が意識してなかったことにも気づけた。
次は何書こうかなーって考えるのも楽しいね。時間、なんとか取っていきたいところ。

English Book Club200220 "The Visitor" Chapter8後半

The Visitor: (Jack Reacher 4)

The Visitor: (Jack Reacher 4)

  • 作者:Lee Child
  • 出版社/メーカー: Bantam
  • 発売日: 2001/04/01
  • メディア: ペーパーバック
こちらの読書会を昨日も行なった。前半は軽井沢でもコロナ無縁じゃないかも,という話で雑談し,後半は第8章の残りを読んだ。

The buildings of the city receded behind them and gentle forest built ahead.

「彼らは町並みを通り過ぎ,行く手にはひっそりとした森が広がっていた。」とかかなあ。無生物主語で書くのも面白いな。

She eased nose-first into a slot and shut down.

ここでのeaseは,ゆっくり動かす,程度の意味。ふむふむ。海外では前向き駐車が普通のところも多いみたい。

'Marines,' she said. 'They gave us sixty acres of land for our place.'
He smiled. 'That's not how they see it. They figure you stole it.'

FBIのエージェントであるsheと,主人公heの会話。FBIとmilitaryの間の緊張関係もテーマの一つで,ここではそれを主人公Reacherが皮肉っている。「海軍がくれたっていうけど,彼らはそう思ってないだろう。盗まれたって思ってる。」

Standard apparel seemed to be dark blue sweats with FBI embroidered in yellow on the front and back, like it was a fashion label or a major-league franchise.

embroiderという単語を知らなかった。汗 刺繍する。

道路のundulation:起伏が車のスピードを落とす,という話の中で,リーディングパートナーの方から'sleeping policeman'という言葉を教えてもらった。画像検索すると分かりやすい。
sleeping policeman - Google 検索
面白い表現だな。

彼女が引っ越しということで,次は4月になるとのこと。いやはや,開校後やん!

「世界の小学校英語教育についての政策と実践」

terasawat.hatenablog.jp

寺沢さんのブログを読んで,そこにリンクが張ってあった資料を読んでみた。

世界の小学校英語教育についての政策と実践
(けっこう重たいPDF資料なので注意。)

ブリティッシュカウンシルが1999-2000年に実施したものでだいぶ古いけれど,→2/21(金)訂正:こちらの調査は2011-12年に行なったものだそう。寺沢さんご本人にご指摘いただきました。多謝!突如として小学校英語教育にも入り始めた自分にとって,久々にこうしてメタに見るというかマクロに見るのは,大事なことだと思う。

子どもの到達度評価への関心が高まっているのは、小学校レベルで英語を教えることが「成熟期を迎えた」ことを示すしるしである、とみなす人が多い点を強調しておけばおそらく十分であろう。多くの国・地域では小学校レベルで英語を導入した当初、到達度評価をなおざりにしたり、意図的に避けたりしていた。その理由は、計画の実施があくまでテストケースであるとか、試験的なものであるとかいう理念の下で行われたため、到達度評価は時期尚早だとか、より否定的な意味で、抑制しなければならない要因だとか感じられたからである。(p.6)

そして以下のような論文からの引用もされている。

新しい初等教育プログラムが 90 年代初めに始まったとき、教師やカリキュラム策定者の間には、テストを実施したり、系統だった方法で学習の進歩を記述したりすることに対して顕著な抵抗が見られた。子ども志向主義(child-orientation ホリスティックなアプローチ、統合的なアプローチ、物語の使用、不安の回避、学習意欲の涵養、異文化に対する開放性)には、正式な試験の入り込む余地がないように見えたのである。(p.6)

それを受けて,以下のような指摘。

しかしながら、英語が初等教育課程の一部としてひとたび確立すると、多くの場合、同じカリキュラムに含まれる他の科目が到達度評価の際に満たすべき通常の要件を、英語も満たしていることを示す必要が生じる。そうなると、次には幼い生徒の英語能力を評価するのに最適な手段が何であるかを決定せざるをえなくなる。(p.6)

つまり,小学校に英語を「導入」する段階では,評価のことは「テストケースだから」「子ども志向主義だから」と抑制されがちだが,ひとたび小学校英語が「成熟」してくると,今度は他の教科との整合性のため,到達度評価に着手せざるを得なくなる,ということだろう。教科間のポリティクス,という感じ。

各国における小学校英語の実情が列挙される。


○小学校における英語教育の開始学年(計64ヶ国)

第1学年 30ヶ国
第2学年 6ヶ国
第3学年 11ヶ国
第4学年 3ヶ国
第5学年 2ヶ国
第5学年以降 7ヶ国
その他 5ヶ国


○教員の供給に関する回答

回答数 割合(四捨五入)
全ての小学校のニーズを満たすのに十分な数の英語教員が確保されている 17 27%
国内には英語教員が足りている地域もあるが、足りていない地域もある 23 36%
国全体で教員の供給が問題になっている 18 28%
その他 3 5%
この件に関しては情報がない 3 5%


小学校英語教育を担当する教員(複数回答:言い方は引用者アレンジ)

クラス担任 25
一校のみ勤務の英語専科 44
複数校勤務の英語専科 21
英語教育関連資格はないが英語に堪能な教員 24
英語に堪能な非教員 13
その他・情報なし 10


○公立小学校で英語教師として認められる資格要件

英語母語話者 7
大学で英語教育の専門教育を受けた小学校教員 26
国・地域の英語能力試験に合格した小学校教員 23
中学校の英語教員 24
英語関連学部卒の非教員 21
小学校英語関連の現職研修を受けた小学校教員 27
国際的な英語能力試験に合格した小学校教員 15
その他・情報なし 10

7つの要件のうち,4つ以上を認めている国は11ヶ国。
日本は母語話者&中学校免許持ちを(当時は)認めていたので,2つ。
でも英語母語話者を要件として認めている国自体が7つしかないって,けっこうびっくりだよね。

小学校が 5 年制または 6 年制の Expanding Circle(引用者注:英語が第二言語でなく外国語であるような場所)の国・地域では、一般的に 400~500 時間が英語教育にあてられているようである。例えば、5 年間の小学校の間に、中国は 432 時間、イタリアは 468 時間の英語授業が行われている。(p.24)

日本は来年から3,4年生で年35時間,5,6年生で年70時間だから,計210時間ということになる。


○小学校終了時までに必要とされる英語の水準

回答数 割合(四捨五入)
情報がない/その他 9 14%
小学校終了時までに到達すべきと規定された水準はない 21 33%
A1 レベルが必要 8 13%
A2 レベルが必要 12 19%
B1 レベルが必要 1 2%
B2 レベルが必要 0 0%
国・地域が設定した独自の基準を持つ試験があるが、ヨーロッパ共通言語参照枠(CEFR)に当てはめることはできない 13 20%

小学校終了時までに到達が期待されるレベルを CEFR に基づいて示しているケースについて見ると、その大半が「A レベル」の範囲内に入るという興味深い結果になっている。この結果は重要な問題を提起している。「Aレベル」は言語能力の到達レベルとしては非常に低いものであるだけでなく、非常にレベルが低いために、A1レベルも A2 レベルも、その中をさらに細かいレベルに分けることが難しい。したがって、小学校終了時までの期間について中間目標を設定したいと考えている教師や教育行政担当者は問題に直面することになる。日本で実施された調査(Negishi, Takada and Tono, 2012)では、A1、A2 の両レベルについて学習目標をそれぞれさらに 3 つ (例:A1.1、A1,2、A1.3)のレベルに分けているが、これまでのところ、この評価基準を用いるのは大人の学習者に限られている。したがって、CEFR を用いて幼い生徒の学習の進み具合や到達レベルを測定する場合の正確さについては、これから重要な研究が実施されねばならない。2 番目の問題として、CEFR が子どもや青少年ではなく成人のニーズと利益を念頭に置いて作成されたものであるという点がある。小学校レベルの英語試験やカリキュラムの専門家(例:Hasselgren, 2005; McKay, 2006; Enever, 2011)の間で広く意見が一致しているのは、英語力の評価基準については、子ども版を作成する必要があるということ、そしてもちろん、話題の分野やコミュニケーションの状況は子どもたちの生活や経験に即したものでなければならないということである。CEFR を使用している国の子どもや教師、評価の専門家は、将来、子ども版の評価基準が作成されればその恩恵を受けると考えられるが、当面は、現在使われているCEFRが目標を設定するうえでのおおよその基準となる。(p.31)

この「子ども版を作成する必要がある」というのはわかるけど,その具体例として今何があるんだろう。


○小学校終了時における英語評価の義務付け

回答数 割合(四捨五入)
正式な評価は義務付けられていない 28 44%
評価が義務付けられている。評価には学校外の国・地方自治体当局が実施する試験が用いられる 21 33%
評価が義務付けられている。評価には国際試験機関が提供する試験が用いられる 1 2%
評価が義務付けられている。評価には学校内で作成された方法が用いられる 12 19%
情報がない/その他 2 4%

とりわけ興味深い矛盾と考えられるのは、目標水準の設定に CEFR が用いられているのに、初等教育終了時に評価が行われないという点である。こうした状況における目標水準とは、国が到達度を確認すべき水準(例えば、英国では読み書き計算の基礎学力の到達度が初等教育終了時にナショナル・カリキュラム・テストで測定される)というよりは、その水準まで到達して欲しいという願望あるいは指導目標と解釈するのが妥当であろうと思われる。(p.32)

こういう事情は国によってまちまちで,中学校進学や中学校入試に英語が使われる場合は,より厳密な評価が行われることになる。

以下,結論部から引用。

研究によると、語学学習の成功を左右する最も重要な条件は学習者の年齢であるという説を裏付けるものはないという。その言語と十分に接触したり相互作用を経験したりするなどの適切な条件がない場合は、語学学習は若いほど良いということにはならない。にもかかわらず、多くの国・地域で、英語学習の導入年齢を引き下げようとする傾向があることがこの調査を通して判明し、特に英語教育は就学前の幼児教育段階で広がっている。英語教育の導入年齢がますます若くなること自体に問題がある訳ではないが、学習のための適切な条件を整える上で必要なモノの確保や教員の養成に資源が投入されなければ、問題が生じる可能性もある。本調査が示すように、多くの国・地域でこうした資源が不足しているか、必要な規模に達しないでいる。(p.42)

最後には「ヨーロッパ早期語学学習(ELLiE)プロジェクト」(Enever、2011)が児童の語学能力の到達度評価についてのプロジェクトだということが書いてあった。このキーワードでググると,ブリティッシュカウンシルが2014年に出した報告書が見つかった。

公立小学校における英語教育の成功要因

今回みたいな文書を出した翌年にちゃんとこういう資料を用意しているあたり,さすがだなあ。ちゃんと読むのはまた今度だけど,この資料から14の提言をとりあえずコピペしておく。

  1. 小学校における英語教育は適切な初等英語教育の研修を受けたジェネラリストの担任教諭によって行われるべきである(第 5、 6 & 8 章参照)。
  2. 上記ジェネラリストの教諭は少なくともヨーロッパ共通参照枠(CEFR)で B2、できれば C1 の英語力を有する必要がある(第 5 章参照)。
  3. 効果的な初等英語教育を可能にする条件のひとつに採用前の教員養成制度があるが、その中において学校教諭は修士号を取得していることが求められる (第 8 章参照)。
  4. 教育制度の成功の中心となるのが教員のための生涯学習である; よって、教員が自分自身で、あるいは同僚と協力して新しい情報を検討し、既存の知識構造に取り込んでいくために十分な時間を取れるような、学校に重点を置いた継続的な能力開発制度の充実が求められる(第 9 章 2 を参照)。
  5. 学校内にあっては、教員は十分に尊敬され、信頼され、国の指針の枠組内で生徒のニーズに合わせた指導内容を編成する自由を与えられていなければならない(第 8 章参照)。
  6. 提言 5 に加え、教員は英語に対して肯定的な態度を示すべきである。これは追って、児童の学ぶ意欲、英語の授業を楽しむ気持ち、そして最終的には成果に影響する(第 5 章を参照)。
  7. 教員および児童にとって意味のある言語使用の機会を提供し、さらにターゲットの表現を新しい文脈で何度も再利用することができる機会を提供するような、年代に応じたカリキュラムの開発が必要である。テーマに基づいた授業を強く推奨する(第9章3を参照)。
  8. 児童にとって現実的な小学校修了までの英語の熟達目標はCEFRのA1-A2である(第5章参照)。
  9. 理想としては、教授時間は長いスパンに少しずつ行うよりも小学校のサイクルの終盤に集中することが望ましいが、現実に実行することが難しいであろうということは認識されている (第9章3を参照)。
  10. 理想としては、教材は各クラス固有のニーズに合わせて教員が準備することが望ましい。他者が準備した教材を使用する場合、教材はどのように年少の児童が言語を習得するかという理解に基づき、また各テーマに基づいた良い刺激を与える活動によって真にコミュニカティブな言語使用を促進するものでなければならない(第9章4を参照)。
  11. 児童の言語学習を促進するためには、学校外で相当量の英語に触れる地域環境が必要である。例えば、学習者の第一言語の吹き替えではなく、字幕で英語の映画やテレビ番組を見ることなどが含まれる(第5章、6章、8章を参照)。
  12. 上記1–10の提言を支持するものとして、国家レベルの初等英語教育を効果的なものとするための必要条件は、社会経済的地位が学業の達成に影響しないような公正な教育制度である(第3章参照)。
  13. 提言12に加えて、教育制度内での学業の成功にあたって英語の個人教授が必須と見なされるようなことがあってはならない(第7章参照)。
  14. 提言13と併せて、(訳注:進学先の決定に使われるような)非常に重大な利害をもたらす試験が教育制度の中で英語能力を伸ばす手段と見なされるようなことがあってはならない(第7・8章参照)。

なかなか読みでがありそう。批判的に検討しなくちゃと思うけど,はてさてこの提言から6年後の僕らは,って感じ。

トンボの湯(折句 2020/02/06)

三セット目は 長居して
     とっくに八分 経っていた
うめき声上げ 首の裏
     凍結するよな 水の中
なぎに身任せ 横たわる
     のど裏駆ける 清涼感
よしまた来るゾと 後にする
     うむまた来いよと 声がする

(書くことを教える教員は,自分自身書き続けていないと,ということで,同僚同士励まし合いながら書き物をしている。せっかく書いたものなので,一応自分のブログにも公開。)

The First Letters(折句 2020/01-02)

(書くことを教える教員は,自分自身書き続けていないと,ということで,同僚同士励まし合いながら書き物をしている。せっかく書いたものなので,一応自分のブログにも公開。)

Rush, just rush,
Up, up and away,
No energy left.


はなされるものか…
しにものぐるいの
れつさいこうび

Lonely nights are
Over.
Vivid memories are
Eternal.


あなたと
いっしょに住むのは先だけど、
すまいは同居を見すえ、
るすを守るっす。

ああなりたい、
こうなりたい、
が、
れつをなしている。


And
Don't forget:
My goal is not being like you.
I want to be your
Rival and
Eat you up in the end.

おそるおそる
そろりそろり
れっとうかん


Future is unclear.
Even now is uncertain.
All you need is
Revive.

優しい声

(書くことを教える教員は,自分自身書き続けていないと,ということで,同僚同士励まし合いながら書き物をしている。せっかく書いたものなので,一応自分のブログにも公開。)

 「ねぇ、知ってる?このユーチューブチャンネル。」
 マサコは保育園に息子を送り届けた帰り道、ママ友にそう話しかけられた。
 「ほら、『うちの子まだひとりでボタンとめられない』ってこないだ愚痴ってたじゃない。最近そういうのを子どもに教えてくれるユーチューバーがいるらしくて、このチャンネルの動画、人気みたいよ。」
 みると、すでに百万回以上も再生されているその動画は、子どもの目を引きそうな派手な色づかいのアニメーションに、優しい声のナレーションがついていて、丁寧にボタンのとめ方が解説されていた。
 その夜、マサコは早速息子にその動画をみせてみた。普段は集中力のない息子だが、この動画にはあっという間にひきこまれた様子で、黙々とボタンどめに取り組んでいた。おかげで晩ご飯の支度もスムーズに済んだマサコは、たまにはこういう動画に頼るのも悪くないわねと、これまでの認識を少しあらためた。
 そのユーチューブチャンネルは、実によくできていた。結局息子は1週間とかからずボタンのとめ方をマスターしたし、それ以外にも、子どもの興味に合ったさまざまな動画がアップロードされていた。歯みがきやトイレも、動画の主が優しく褒めてくれるので、息子はうれしそうに動画をみながら、何度も練習した。
 これまでは、息子が料理に興味を持ったときも、包丁やら火の扱いやら気をつけるべきことが多すぎて、マサコは息子を台所から遠ざけていた。でもいまは違う。「火は危ないです。近づきすぎないようにしましょう」「包丁を持ったら、ここに気をつけましょう」優しい声で危険を教えてもらえるおかげで、息子は一度もケガをしなかった。
 息子の成長のそばに、いつもこのユーチューブチャンネルがあったし、そういう家はますます増えているようだった。小学校の保護者会でも、だれかれともなくこのチャンネルが話題になった。
 「それにしても不思議だよね。この動画、誰がつくっているのかしら。声だけで、顔も出ていないし。」
 「ほんとほんと。こんなに素敵な動画を、こんなにたくさん、しかも無料で公開してくれるなんて。どこで利益を上げるつもりか知らないけど、ありがたいことだわ。」
 息子が中学校に上がっても、動画の効果は健在だった。反抗期になる年頃ではあったけれど、「おうちの人は大事にしましょう」と優しくくり返す動画をそれとなく見せ続けたおかげか、特に反抗期らしい反抗期も迎えなかった。同じころ、全国的に非行や学級崩壊が減ってきたというニュースが報道されたが、マサコは半分本気で、このユーチューブチャンネルのおかげなのではないかと思ったくらいだった。
 いつからかそのチャンネルに新しい動画はアップロードされなくなっていたが、その頃にはすでに子育てには十分すぎるほどの数の動画がアップロードされていたし、なによりマサコの息子も大学に入っていた。ほどなくして息子は無事大学を卒業した。就職後、親元を離れたので息子とやり取りすることもめっきり減ったが、マサコは趣味の手芸サークルに参加し、穏やかな生活を送っていた。
 そこで話題になるのは、もっぱら老後の話。みんな不安があるようで、どの薬がきくとかどの病院がいいとかの健康の話から、選挙が近づくとどの政党が自分たちによさそうとかの政治の話まで。マサコ自身、昔はどこに投票しても変わらないと思っていたものの、この年になると少しでも自分に得になるようにと考えてしまう。まあ、超少子高齢化が進む日本では、若い世代がよほど一致団結しない限り、今の年寄りびいきな与党が敗けることはないのだけど。
 そう思っていつものように与党に投票したマサコが仰天したのは、選挙結果のニュースをみたときだった。最近出てきたある政党が、二十代三十代からの驚異的な支持を受け、それまでの与党を破ったのだ。「今の与党は危ないです。私に投票しましょう」「投票権を持ったら、私に投票しましょう」などと中身のない演説をひたすらにくり返していただけの党に、こんなたくさんの若者が投票するなんて。ニュースでは、新与党党首の所信表明演説がくり返し流されていた。どこかで聞いたことがあるはずのその優しい声を、マサコはもう覚えてはいなかった。