さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

アフリカの哲学者とカントの差別主義

Yacob and Amo: Africa’s precursors to Locke, Hume and Kant | Aeon Essays
を読んだ。大学の後輩*1Twitterでつぶやいていて,読んでみようと「積んタブ」していたのだけど,なかなか量も多いし手が回っていなかったのを最近読み終わった。
非常に面白かった。そもそもアフリカの哲学者って,たしかに聞いたことなかったけど,それがある種の欧米中心主義なのかもね,とも。
カントやヒュームがEnlightenment啓蒙思想を広める半世紀から1世紀くらい前に,YacobやAmoという哲学者がアフリカで似た内容,場合によってはさらに現代的な内容を説いていた,という話。

そこで一番印象に残ったのは,情けないことに別にその人の哲学の内容ではなくて,以下の部分。

In his Essays and Treatises on Several Subjects (1753-4), Hume wrote: ‘I am apt to suspect the negroes, and in general all the other species of men (for there are four or five different kinds) to be naturally inferior to the whites.’ He added: ‘There never was a civilised nation of any other complexion than white, nor any individual eminent either in action or speculation.’ Kant (1724-1804) built on Hume (1711-76), and stressed that the fundamental difference between blacks and whites ‘appears to be as great in regard to mental capacities as in colour’, before concluding in Physical Geography: ‘Humanity is at its greatest perfection in the race of the whites.’

当代一賢かった人物の一人であったろうヒュームやカントすら,このような,現代から見れば「前時代的」な白人中心主義的思想に囚われてしまっているのか!と。
これはともすれば「彼らの時代はこうした考え方が『合理的』だったんだ」と,優生主義を擁護してしまいそうでアレなのだけど,ともかく現代のように「どの人種も平等である」という考え方は,もちろん実証されうる「事実」である部分もあるんだろうけど,闘争の結果勝ち取られる「思想」でもあるんだろうな,と思わされた。

たしかに最近観た動画でこんなのもあったな。
https://www.ted.com/talks/steven_pinker_chalks_it_up_to_the_blank_slate?language=ja
スティーブン・ピンカーは,今後脳科学等で色々な「違い」が発見されていくだろうし,それはもしかすると「反優生主義」の旗印の下に抑圧されるかもしれない,と述べている。それに彼は“Man will become better when you show him what he is like”と引用しながら反対している。

どのみち,その人の属性がその人の能力を説明(決定?)する割合よりも,個人差のが大きいんだと思う。これも根拠のない信念にすぎないのかもしれないけど。「黒人みんな足が速いと思うなよ!」とハーフ芸人が言っていたような気がするけど,そんなようなことで,全体としての傾向はたとえあったとしても,個人の違いを飛び越えるほどのことはないんじゃないかなあ。


それで,なんで上に紹介した部分が心に残ったのかを改めて考えると,「新しい普通」という言葉が大きく関係している。どうしたらそれをつくれるのか。
10年ちょっと前に公開されたiPhoneを例に挙げるまでもなく,「新しい」ことと,「普通」すなわち人口に膾炙することとを両立させるのは,非常に難しい。
その難しさの片鱗を最近改めて味わっている。「常識を疑え」とは言うけれど,カントですら疑えなかった「常識」を,新たに打ち立ててさらには広げていく時に必要だったのは,合理的思考だけではなく,信念とか活動とか政治とか,そういう自分が非常に苦手な部分なのかもしれないなあと,改めて思わされているのです。
もっとも,今はまだきちんと合理的に考え抜くことすらできていないから,お話にもならないんだけど。

♪淡い恋の端っこを決して離さなければ この夏は例年より騒々しい日が続くはずさ

*1:と彼を称するのが正しいのかよく分からないけど,とりあえず同じ大学ではある。笑