日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙 (ハヤカワ文庫JA)
- 発売日: 2020/07/16
- メディア: Kindle版
超能力者が集まる町,ホルムで起こる本物の超常現象。戦禍を避けるため,ホルムの人々は戦争が近づくと強い超能力者を生み出し,街全体を能力で消してしまう。結晶化という伏線も鮮やかだし,語り手がその結晶化してしまった町に入っていくラストも美しい。
赤ん坊は少しずつ生まれ,老人は少しずつ死ぬというアイディアと死にゆく祖父と生まれくる孫が交流できるのか?にハラハラし,ラストにホロッと来る,和田毅「生まれくる者,死にゆく者」も秀逸。
中世ヨーロッパに電話とネットが存在するという設定の「G線上のアリア」は,クライマックスのミケーレが歌うシーンの美しさと,ニヤッとするオチが爽快。途中の中世ヨーロッパの史実に架空の設定が乗っかっていく部分はきちんと読み込めなかったから,これも慣れとこちらの知識の問題かな。
「月を買ったご婦人」は,同じく改変歴史ものだけれど,竹取物語+月世界旅行のようなお話。絶世の美女かつ資産家ともなったドンナ・アナの一言が世界をこうも変えるか!と,振り回される男たちのバタバタは竹取物語。だけれどそれによって変わった世界の情景描写はまさしくSFで,さらにラストの綺麗さは本当に素晴らしかった。SF,きちんと映像が脳裏に描けたら,めちゃ美しいだろうなー。
反対に,まったく違う言語体系・思考体系を持つ異星人と戦う彼から恋人へと届く手紙群によって少しずつ事情が見えてくる「死んだ恋人からの手紙」や,数に色がついて見えるという共感覚をさらに強めたようなお話「ムーンシャイン」など,いかにもSFチックなお話は,正直あまりついていけなかった。いずれ「あなたの人生の物語」みたいな本格SFをしっかり楽しめるようになりたいなーと思うから,易しいものから慣れていこうかしら。
ちなみに子ども向けにSFを!ということで,21世紀空想科学小説というシリーズがあるらしい。これも学校のライブラリーに入れてもらおう。自分でも楽しんで読みたいところだ。