さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』

赤ちゃんはことばをどう学ぶのか (中公新書ラクレ)

赤ちゃんはことばをどう学ぶのか (中公新書ラクレ)

風越の同僚に借りて読んでみました。言語がどう始まるか,面白いなあ。
前作(ってわけでもないか)の『言葉をおぼえるしくみー母語から外国語まで』は専門的な研究の羅列感が強くて難しかったけど,今作は非常に読みやすかった。章立ては以下の通り。

1. 赤ちゃんは本当に「天才」なのか
2. まず,聞く
3. 「声」から「ことば」へ
4. 子どもはあっという間に外国語を覚えるという誤解について
5. 必要だから,学ぶ

子どもの言語学習は,徹頭徹尾,「必要性」からはじまる。必要性があればがんばるし,なければどんなに与えても身につかない。まさに「正統的周辺参加」というか,周囲でなされているコミュニケーションに参画するために必死,という感じなのかな。

生まれて1年,12ヶ月というのが一つの区切りのように書かれていたので,それに沿って簡単にまとめてみる。大体の目安でしかないけれど。

月齢 聞くこと 話すこと
2-3ヶ月 口からのどにかけての空間が広がり,リラックスして発声可能に。
半年 母語で区別している音の区別はだいたいできるようになる
1年 母語で区別しない音の区別ができなくなる(*1) 最初の単語を発する→新しく言えるようになる単語が月5つくらい増えていく
1年半 話し手の指差しや視線をたよりに,単語の意味を見つけ出せるように!→語彙爆発
2歳 発することのできる語が200語(*2)程度に。そして単語をつなげて文を話すようになる。

(*1)この低下を食い止めようとオーディオ・ビデオ・生身のベビーシッターによって外国語を浴びせるということをしたところ,生身のベビーシッターのみ効果があったらしい。これまた「自分にとってその人とやりとりする必要感があるか」というところだろう。またバイリンガル環境の場合どうなるか,というのは
(*2)この子どもの200語は,「誰にも教えてもらえないまま,自分でその言語の音の聞き分け方を学び,発音の練習をし,単語の種類やその意味の学習の仕方まで見つけ,そうやって築き上げてきた母語の基盤に根差した200語(p.132)」。ううむ,貴重だ。


その他面白かった話。

単語の特殊性
単語以外の音:音そのものが意味(犬の鳴き声・花瓶が落ちて割れる音)
単語:音そのものと意味が別
たしかに。犬の吠え声はそれ自体,犬の存在自体を知らせるものだが,「りんご」という発声は,話し手についてなんら情報を与えない。

電文体発話(telegraphic speech)
助詞抜け・冠詞/活用語尾抜け
15ヶ月で,助詞の存在に気づいているし,抜かしてもいいことも知っている。
これすごいなー!またそれをたしかめるための実験設計もすごいや。

指差しの意味
僕ら大人は指を指して言葉を発して子どもに単語を教えようとするけれど,それがそもそも子どもにとっては難しい。指を指したらまずその指に着目するよね子どもは,という話。また指差しがその先にあるものを指すと分かったとして,次なる壁が「ガバガイ問題」。うさぎを指して「ガバガイ」と外国人が言ったとして,その音が指すものは何なのか。「うさぎという種」なのか,「(私が飼っているなどの)そのうさぎ」なのか,それとも「白い」なのか,「かわいい」なのか,「モフモフ」なのか,分かるすべがその瞬間にはない,ということ。それと同じ状況が赤ちゃんにも起こっていると考えると,そこから言葉を得るのは難しいことだ。

生まれ落ちて最初の一年で,身の回りの音環境から「言語」を切り出して,その特徴を分析して,最初の単語を発するようになる。次の半年ゆっくりゆっくり単語を知っていくけれど,いつか指差しの意味を知ったり,単語の意味範疇を知っていったりと規則を学び,2年経つころには200語を知り,そこからはそれを足場にぐんぐん言葉を知っていく。
その後でいわゆる幼稚園保育園に入って,周囲の子どもや大人と意味のやり取りをする中で言葉に習熟していく。


こういう本を昔はお勉強として読んで,いや,今もその部分は多分にあるんだけど,でも今や「自分に子どもがいたら」という気分で読めるの,ホント時が経つのは早いなって感じ。笑
こういう軽い感じでさくさく更新していきたいところ。色々この半年の発見は,きっと残しておくべきものなんだろうと思いつつ,思いつつ〜。