さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

「世界の小学校英語教育についての政策と実践」

terasawat.hatenablog.jp

寺沢さんのブログを読んで,そこにリンクが張ってあった資料を読んでみた。

世界の小学校英語教育についての政策と実践
(けっこう重たいPDF資料なので注意。)

ブリティッシュカウンシルが1999-2000年に実施したものでだいぶ古いけれど,→2/21(金)訂正:こちらの調査は2011-12年に行なったものだそう。寺沢さんご本人にご指摘いただきました。多謝!突如として小学校英語教育にも入り始めた自分にとって,久々にこうしてメタに見るというかマクロに見るのは,大事なことだと思う。

子どもの到達度評価への関心が高まっているのは、小学校レベルで英語を教えることが「成熟期を迎えた」ことを示すしるしである、とみなす人が多い点を強調しておけばおそらく十分であろう。多くの国・地域では小学校レベルで英語を導入した当初、到達度評価をなおざりにしたり、意図的に避けたりしていた。その理由は、計画の実施があくまでテストケースであるとか、試験的なものであるとかいう理念の下で行われたため、到達度評価は時期尚早だとか、より否定的な意味で、抑制しなければならない要因だとか感じられたからである。(p.6)

そして以下のような論文からの引用もされている。

新しい初等教育プログラムが 90 年代初めに始まったとき、教師やカリキュラム策定者の間には、テストを実施したり、系統だった方法で学習の進歩を記述したりすることに対して顕著な抵抗が見られた。子ども志向主義(child-orientation ホリスティックなアプローチ、統合的なアプローチ、物語の使用、不安の回避、学習意欲の涵養、異文化に対する開放性)には、正式な試験の入り込む余地がないように見えたのである。(p.6)

それを受けて,以下のような指摘。

しかしながら、英語が初等教育課程の一部としてひとたび確立すると、多くの場合、同じカリキュラムに含まれる他の科目が到達度評価の際に満たすべき通常の要件を、英語も満たしていることを示す必要が生じる。そうなると、次には幼い生徒の英語能力を評価するのに最適な手段が何であるかを決定せざるをえなくなる。(p.6)

つまり,小学校に英語を「導入」する段階では,評価のことは「テストケースだから」「子ども志向主義だから」と抑制されがちだが,ひとたび小学校英語が「成熟」してくると,今度は他の教科との整合性のため,到達度評価に着手せざるを得なくなる,ということだろう。教科間のポリティクス,という感じ。

各国における小学校英語の実情が列挙される。


○小学校における英語教育の開始学年(計64ヶ国)

第1学年 30ヶ国
第2学年 6ヶ国
第3学年 11ヶ国
第4学年 3ヶ国
第5学年 2ヶ国
第5学年以降 7ヶ国
その他 5ヶ国


○教員の供給に関する回答

回答数 割合(四捨五入)
全ての小学校のニーズを満たすのに十分な数の英語教員が確保されている 17 27%
国内には英語教員が足りている地域もあるが、足りていない地域もある 23 36%
国全体で教員の供給が問題になっている 18 28%
その他 3 5%
この件に関しては情報がない 3 5%


小学校英語教育を担当する教員(複数回答:言い方は引用者アレンジ)

クラス担任 25
一校のみ勤務の英語専科 44
複数校勤務の英語専科 21
英語教育関連資格はないが英語に堪能な教員 24
英語に堪能な非教員 13
その他・情報なし 10


○公立小学校で英語教師として認められる資格要件

英語母語話者 7
大学で英語教育の専門教育を受けた小学校教員 26
国・地域の英語能力試験に合格した小学校教員 23
中学校の英語教員 24
英語関連学部卒の非教員 21
小学校英語関連の現職研修を受けた小学校教員 27
国際的な英語能力試験に合格した小学校教員 15
その他・情報なし 10

7つの要件のうち,4つ以上を認めている国は11ヶ国。
日本は母語話者&中学校免許持ちを(当時は)認めていたので,2つ。
でも英語母語話者を要件として認めている国自体が7つしかないって,けっこうびっくりだよね。

小学校が 5 年制または 6 年制の Expanding Circle(引用者注:英語が第二言語でなく外国語であるような場所)の国・地域では、一般的に 400~500 時間が英語教育にあてられているようである。例えば、5 年間の小学校の間に、中国は 432 時間、イタリアは 468 時間の英語授業が行われている。(p.24)

日本は来年から3,4年生で年35時間,5,6年生で年70時間だから,計210時間ということになる。


○小学校終了時までに必要とされる英語の水準

回答数 割合(四捨五入)
情報がない/その他 9 14%
小学校終了時までに到達すべきと規定された水準はない 21 33%
A1 レベルが必要 8 13%
A2 レベルが必要 12 19%
B1 レベルが必要 1 2%
B2 レベルが必要 0 0%
国・地域が設定した独自の基準を持つ試験があるが、ヨーロッパ共通言語参照枠(CEFR)に当てはめることはできない 13 20%

小学校終了時までに到達が期待されるレベルを CEFR に基づいて示しているケースについて見ると、その大半が「A レベル」の範囲内に入るという興味深い結果になっている。この結果は重要な問題を提起している。「Aレベル」は言語能力の到達レベルとしては非常に低いものであるだけでなく、非常にレベルが低いために、A1レベルも A2 レベルも、その中をさらに細かいレベルに分けることが難しい。したがって、小学校終了時までの期間について中間目標を設定したいと考えている教師や教育行政担当者は問題に直面することになる。日本で実施された調査(Negishi, Takada and Tono, 2012)では、A1、A2 の両レベルについて学習目標をそれぞれさらに 3 つ (例:A1.1、A1,2、A1.3)のレベルに分けているが、これまでのところ、この評価基準を用いるのは大人の学習者に限られている。したがって、CEFR を用いて幼い生徒の学習の進み具合や到達レベルを測定する場合の正確さについては、これから重要な研究が実施されねばならない。2 番目の問題として、CEFR が子どもや青少年ではなく成人のニーズと利益を念頭に置いて作成されたものであるという点がある。小学校レベルの英語試験やカリキュラムの専門家(例:Hasselgren, 2005; McKay, 2006; Enever, 2011)の間で広く意見が一致しているのは、英語力の評価基準については、子ども版を作成する必要があるということ、そしてもちろん、話題の分野やコミュニケーションの状況は子どもたちの生活や経験に即したものでなければならないということである。CEFR を使用している国の子どもや教師、評価の専門家は、将来、子ども版の評価基準が作成されればその恩恵を受けると考えられるが、当面は、現在使われているCEFRが目標を設定するうえでのおおよその基準となる。(p.31)

この「子ども版を作成する必要がある」というのはわかるけど,その具体例として今何があるんだろう。


○小学校終了時における英語評価の義務付け

回答数 割合(四捨五入)
正式な評価は義務付けられていない 28 44%
評価が義務付けられている。評価には学校外の国・地方自治体当局が実施する試験が用いられる 21 33%
評価が義務付けられている。評価には国際試験機関が提供する試験が用いられる 1 2%
評価が義務付けられている。評価には学校内で作成された方法が用いられる 12 19%
情報がない/その他 2 4%

とりわけ興味深い矛盾と考えられるのは、目標水準の設定に CEFR が用いられているのに、初等教育終了時に評価が行われないという点である。こうした状況における目標水準とは、国が到達度を確認すべき水準(例えば、英国では読み書き計算の基礎学力の到達度が初等教育終了時にナショナル・カリキュラム・テストで測定される)というよりは、その水準まで到達して欲しいという願望あるいは指導目標と解釈するのが妥当であろうと思われる。(p.32)

こういう事情は国によってまちまちで,中学校進学や中学校入試に英語が使われる場合は,より厳密な評価が行われることになる。

以下,結論部から引用。

研究によると、語学学習の成功を左右する最も重要な条件は学習者の年齢であるという説を裏付けるものはないという。その言語と十分に接触したり相互作用を経験したりするなどの適切な条件がない場合は、語学学習は若いほど良いということにはならない。にもかかわらず、多くの国・地域で、英語学習の導入年齢を引き下げようとする傾向があることがこの調査を通して判明し、特に英語教育は就学前の幼児教育段階で広がっている。英語教育の導入年齢がますます若くなること自体に問題がある訳ではないが、学習のための適切な条件を整える上で必要なモノの確保や教員の養成に資源が投入されなければ、問題が生じる可能性もある。本調査が示すように、多くの国・地域でこうした資源が不足しているか、必要な規模に達しないでいる。(p.42)

最後には「ヨーロッパ早期語学学習(ELLiE)プロジェクト」(Enever、2011)が児童の語学能力の到達度評価についてのプロジェクトだということが書いてあった。このキーワードでググると,ブリティッシュカウンシルが2014年に出した報告書が見つかった。

公立小学校における英語教育の成功要因

今回みたいな文書を出した翌年にちゃんとこういう資料を用意しているあたり,さすがだなあ。ちゃんと読むのはまた今度だけど,この資料から14の提言をとりあえずコピペしておく。

  1. 小学校における英語教育は適切な初等英語教育の研修を受けたジェネラリストの担任教諭によって行われるべきである(第 5、 6 & 8 章参照)。
  2. 上記ジェネラリストの教諭は少なくともヨーロッパ共通参照枠(CEFR)で B2、できれば C1 の英語力を有する必要がある(第 5 章参照)。
  3. 効果的な初等英語教育を可能にする条件のひとつに採用前の教員養成制度があるが、その中において学校教諭は修士号を取得していることが求められる (第 8 章参照)。
  4. 教育制度の成功の中心となるのが教員のための生涯学習である; よって、教員が自分自身で、あるいは同僚と協力して新しい情報を検討し、既存の知識構造に取り込んでいくために十分な時間を取れるような、学校に重点を置いた継続的な能力開発制度の充実が求められる(第 9 章 2 を参照)。
  5. 学校内にあっては、教員は十分に尊敬され、信頼され、国の指針の枠組内で生徒のニーズに合わせた指導内容を編成する自由を与えられていなければならない(第 8 章参照)。
  6. 提言 5 に加え、教員は英語に対して肯定的な態度を示すべきである。これは追って、児童の学ぶ意欲、英語の授業を楽しむ気持ち、そして最終的には成果に影響する(第 5 章を参照)。
  7. 教員および児童にとって意味のある言語使用の機会を提供し、さらにターゲットの表現を新しい文脈で何度も再利用することができる機会を提供するような、年代に応じたカリキュラムの開発が必要である。テーマに基づいた授業を強く推奨する(第9章3を参照)。
  8. 児童にとって現実的な小学校修了までの英語の熟達目標はCEFRのA1-A2である(第5章参照)。
  9. 理想としては、教授時間は長いスパンに少しずつ行うよりも小学校のサイクルの終盤に集中することが望ましいが、現実に実行することが難しいであろうということは認識されている (第9章3を参照)。
  10. 理想としては、教材は各クラス固有のニーズに合わせて教員が準備することが望ましい。他者が準備した教材を使用する場合、教材はどのように年少の児童が言語を習得するかという理解に基づき、また各テーマに基づいた良い刺激を与える活動によって真にコミュニカティブな言語使用を促進するものでなければならない(第9章4を参照)。
  11. 児童の言語学習を促進するためには、学校外で相当量の英語に触れる地域環境が必要である。例えば、学習者の第一言語の吹き替えではなく、字幕で英語の映画やテレビ番組を見ることなどが含まれる(第5章、6章、8章を参照)。
  12. 上記1–10の提言を支持するものとして、国家レベルの初等英語教育を効果的なものとするための必要条件は、社会経済的地位が学業の達成に影響しないような公正な教育制度である(第3章参照)。
  13. 提言12に加えて、教育制度内での学業の成功にあたって英語の個人教授が必須と見なされるようなことがあってはならない(第7章参照)。
  14. 提言13と併せて、(訳注:進学先の決定に使われるような)非常に重大な利害をもたらす試験が教育制度の中で英語能力を伸ばす手段と見なされるようなことがあってはならない(第7・8章参照)。

なかなか読みでがありそう。批判的に検討しなくちゃと思うけど,はてさてこの提言から6年後の僕らは,って感じ。