さんだーさんだ!(ブログ版)

旧「◯◯な英語教員に、おれはなる!!!!」 - 大学院を終え、2015年度より中高英語教員になりました。

生まれは育ちを通して

読みました。先の記事で紹介された本。

やわらかな遺伝子 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

やわらかな遺伝子 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

「生まれか,育ちか」というのは教育分野においても重要なテーマだけれど,この点について「生まれは育ちを通じて」という新しい概念を提唱した作品。これでもかというほどの具体的な実験内容が列挙されていて,正直消化不良な感は否めない。笑

ということで,備忘録的に一部抜粋。

 思うに,トゥービー―コスミデスの言う遺伝子の素晴らしさは,まさにここにある。ほかの六つの定義を統合し,さらに七つめの定義を加えているのである。それは,ドーキンスの言う自己主張をする遺伝子であり(何世代にもわたって生き残りの試練を乗り越えようとしている),メンデルの言う書庫であり(膨大な年月の適応進化によって得た知恵が記されている),ワトソン―クリックの言うレシピであり(RNAを介したタンパク質の生成によってその影響を及ぼしている),ジャコブ―モノーの言う個体発生のスイッチであり(特定の組織でのみ発現する),ギャロッドの言う健康をもたらすものであり(想定された環境のもとで健康な成長をもたらす),ド・フリースの言うパンゲンでもある(同じ種や別の種でさまざまな個体発生のプログラムにおいて利用されている)。だがもうひとつ別の意味もある。それは,環境から情報を引き出す装置でもあるのだ。
 Y染色体上にある雄性化にかかわるSRY遺伝子は,社会学者を憂鬱にさせるタイプの遺伝決定論の担い手に見えやすい。前にも示唆したように,SRYが一連の事象のきっかけとなって,(一般に)男性はソファーに座ってビールを飲みながらサッカーを観戦し,女性はショッピングをしたりおしゃべりをしたりする。ところが別の見方をすれば,SRYは見事なまでに「育ち」のしもべでもある。その仕事と目的と欲求は―下流にある何百もの遺伝子の助けを借りて―主である生物の育つ環境から,特定の種類の情報を引き出すことにある。たとえば,男性の身体の成長に必要な食物,精神の発達に必要な社会的誘因,性的嗜好の発達に必要なジェンダーの誘因,それに,現代社会における男性性を表出させるのに必要なテクノロジー(おもちゃの銃やリモコンなど)さえも選んで引き出すのだ。だがSRYは―というより,SRYが起動する個体発生のプログラムは―環境の変化によって操られ,順応する。中世ヨーロッパの男の赤ん坊を,現代のカリフォルニアへ連れてきたら,きっと剣や馬でなく銃や自動車に興味をもつだろう。だからSRY遺伝子は,環境の引き出し役のように見えてしまうだけなのである。
 ここでまた,著者からのメッセージがある。遺伝子は,情け容赦のない小さな決定者で,繰り返し同じメッセージを生み出している。しかし,プロモーターが外部からの命令によってスイッチのオン・オフをしているのだから,遺伝子の活動が最初から決まっているとは言えない。むしろ,遺伝子は環境から情報を引き出す装置なのだ。あなたの脳内で発現する遺伝子のパターンは,多くの場合,時々刻々と,体外の事象に直接あるいは間接的に反応して変化している。遺伝子は経験のメカニズムなのである。(pp.402-404)

その次の第10章「逆説的な教訓」から,7つの教訓も引用しておこう。

  1. 遺伝子を恐れるな。遺伝子は神ではなく,歯車なのだ。
  2. それでも良い親になることは重要なのである。
  3. 個性は,素質を欲求で強化することによって生み出されたものである。
  4. 公平な社会では「生まれ」が強調され,不公平な社会では「育ち」が強調される。
  5. 遺伝子と本能は,どちらも理解を深めるほど,不可避には見えなくなる。
  6. 社会政策は,ひとりひとりが異なっているということを基本にしなければならない。
  7. 自由意志は,遺伝子によってあらかじめ精妙に定められ動かされている脳と完全に両立する概念である。

4点目は言われてみるとそのとおりだなと。
つまり,たとえば学力について考えてみると,不公平な社会,すなわち限られた人にしか教育の機会が提供されない社会においては,「育ち」が決定的に大事になる。教育を受けたか受けなかったかで学力のほとんどが決まる。
しかし義務教育などが普及して,「育ち」の過程で得られる教育が均質化してくると,「生まれ」が大事になってくる,と。ふむふむ。


これをなんとなく読み終えた後,先輩の英語教育関係者と飲みに行った。
さんだーくんはナイーブだよね,的なことを言われた*1。世間の暗いところを知らないというか,どうしようもなく悪い人がいることを知らないというか。性善説性悪説の話にもなったけど,どちらにせよ先述の本で言うと「生まれ」を重視している点では変わらない。
自分としては,もちろん「育ち」の最中では変えられないものも大きくあると思いつつ,そのさなかでどんなスイッチが押されるのか,気を使っていきたいなと*2
あとはまあ,「どうしようもなく悪い人」が自分の人生に関わらないように努力していきたいところだよね。笑

*1:気がする。

*2:や,注意できるものなのかすら分からないけど。笑