さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

「リリーのすべて」観てきました。

観てきました。,「リリーのすべて」。
映画『リリーのすべて』公式サイト 2016.3.18[FRI] ROADSHOW
原題は”The Danish Girl,” which I believe is a better title.

「世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの実話に基づく勇気と愛の物語。命の危険を冒してでも自分らしく生きることを望んだ主人公と、その一番の理解者であり続けた妻が織りなす魂の触れ合いのドラマを、心揺さぶる演技と演出で綴りあげた感動の大作」(上のHPから引用)
何よりこの主演のエディ・レッドメインの演技が神がかってる。女性性に目覚めて「上達」していく過程が克明に描かれてて,スゴいなあと。

一言で言えばトランスジェンダーLGBTのT)の話で,アイナーという男性の中にリリーという女性が目覚めて,その存在が大きくなって,アイナーも困惑するし,その妻ゲルダももっと困惑する。
途中,リリーが女性として好きになりかけていた男性に「アイナー」と囁かれて激しく拒絶するシーンがある。この相手の男性は同性愛者(LGBTのG)で,リリーにとっては,自分ではない他者を愛していると感じられて幻滅したってことだろう。この辺りは性的マイノリティーの理解を深めるのに使えるなーなんて,くだらない「先生」みたいなことを考えていた。

それよりもっとくだらないなと思えどもきっと一生治らないなと思うのが,洋画を観るとどうしても英語表現に目と耳が行ってしまうところ。
たとえば,「余計な真似しないで」と訳されていた台詞がありました。さて,訳せますか?4語で。




「正解」は,“Stay out of it!”でした。どの語も知ってるけど,サッと出てくるかはアヤシイよなーと。
その直前の「(私より売れてるからって)私のことを画商に口利きしないでもらえる?」ってのが “Could you please not speak to Rasmussen about me again?”なのも,慇懃な丁寧表現って感じね。

あと言語的に面白いなあと思ったのが,翻訳の問題。EinarとLiliがひとりの人の中に混在していて,それは"I"と言っている間は別に表面化してこない。しかしそれを日本語に直す時に,「僕」「私」どちらで訳すかで,決定的な違いが生まれているように思った。というか,どちらかに決めざるを得ないってのがつらいんじゃないか。どちらとも決めかねている時でもなんとか表現できる"I"の英語と,翻訳者の「読み」にしたがってどちらかの立場を表明せざるを得ない「私」「僕」の日本語。自分がこの話訳すとしたら,なるべく一人称出さないようにするのかもなあ。


それでですね。こんなくだらないことは置いておいて,観ながら本当に感動してしまったシーンだけ紹介しておきたいなと思います。
唯一この「病気」について理解を示してくれた婦人科医の元に夫婦で訪れたアイナーとゲルダ。以下の会話。

Warnekros(婦人科医): So what do you think would explain what you’ve been experiencing Mr Wegener?
Wegener: Professor Warnekros… the fact is… I believe that I'm a woman (inside)*1.
Garda: And I believe it too.

この最後の5語ね!

この動画の2分16秒あたりからそのシーンが観られるけど,このゲルダの演技と台詞。夫の台詞,絶対予期してたはずだけどそれでもやっぱりビクッと反応してしまって,それでもこの台詞を毅然として言い放つ。気高さというか,尊さというか,得難さというか。どんだけ悩んだんだろうね。

ということで,徹頭徹尾ゲルダを応援しながら観ていました。

結局アイナーは性転換手術を受けることにするんだけど,そのくだりも素晴らしくて,

Warnekros: An irreversible change, and a high risk of failure, of infection, complications.
Gerda: It's too dangerous...
Einar: It's my only hope.

アイナーが「死んで」,完全にリリーになってしまった元夫は,自分の道を歩き始める。

Lili: For goodness’ sake, Gerda - Einar is dead. We both have to accept that. You took care of me, now I have to take care of myself. I have to have a life of my own. And you need to do the same.

これ,言われたくないよなあ。たしかこの"same"という言い方も,なんだかいやらしい感じがした。
脳死と判定された人は二度と目覚めないと知ってても,その家族はやっぱり何か期待しちゃう,みたいな感じで,目の前の「その人」は,姿形は夫そのままなんだもんなあ。内面やら化粧やらはどう変わろうが。

日記冒頭で,邦題より原題のがいいと思うと書いたけど,それはやっぱり”The Danish Girl”が本当にLiliだけを指していたのかって話で,やっぱり個人的にはGerdaも”The Danish Girl”なんだと思う。誰を主人公と観るか,色々面白い映画だと思いました!
あと,さすがに画家をテーマにしている映画だけあって,映像美にもそうとうこだわっている。「温度や湿度が伝わる画になっている」と評価している人もいて,なるほどなあと*2

*1:ネットに落ちてたスクリーンプレイにはinsideという語があったけど,上の動画の中にはみられない。ミスなのかな。

*2:というか英語表現なんかに着目して観ている自分が恥ずかしくなるよね。もっと映画の画自体に着目できるようになりたいもんだ