- 作者: 西林克彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/09/20
- メディア: 新書
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ということで、一番大事な最後のまとめを写してみます。
(とはいえ、白眉は毎回ハッとさせられる個々の具体例なので、ぜひご一読ください。笑)
4.まとめ
本書の内容をざっと反芻していただくために、そのときどきに行った「まとめ」を並べてみたいと思います。A.「わからない」「わかる」「よりわかる」に関する知見の「まとめ」です。部分間の関連が「よりわかる」ための条件であることは、何ヶ所でも用いてきました。
- 文章や文において、その部分間に関連がつかないと、「わからない」という状態を生じます。
- 部分間に関連がつくと、「わかった」という状態を生じます。
- 部分間の関連が、以前より、より緊密なものになると、「よりわかった」「よりよく読めた」という状態になります。
- 部分間の関連をつけるために、必ずしも文中に記述のないことがらに関する知識を、また読み手が作り上げた想定・仮定を、私たちは持ちだしてきて使っています。
B.文脈の働きの「まとめ」です。文脈の交換によって、異なった意味をうまく引き出すのです。文脈は、よりよく読むための道具です。
- 文脈がわからないとわからない。
- 文脈がスキーマを発動し、文脈からの情報と共同して働く。
- 文脈がそれぞれの部分の記述から意味を引き出す。
- 文脈が異なれば異なる意味が引き出される。
- 文脈に引き出されたそれぞれの意味の間で関連ができることで文がわかる。
C.どのようなときに「わかったつもり」が作られやすいのかについてのまとめです。大きくは、文章構成に由来するものと、読み手の既存のスキーマに影響されるものとの2種があります。
D.「わかったつもり」からの「読み」の進展課程の「まとめ」です。新たな文脈の導入だけで、よりよく読めるケースも存在しますが、多くの場合は次のようなプロセスを経由します。
- 「わかったつもり」の状態
- 新たな文脈による、部分からの新しい意味の引き出し
- 引き出された意味による矛盾・無関連による「わからない」状態
- 新たな無矛盾の関連づけによる「よりわかった」状態
E.読み手の「想像・仮定」の構築によって、「読み」を深めるわけですが、「想像・仮定」に関する制限の「まとめ」です。ここから国語教育への提言も発しています。
- 整合的である限りにおいて、複数の想像・仮定、すなわち「解釈」を認めることになります。間違っていない限り、また間違いが露わになるまで、その解釈は保持されよいのです。
- ある解釈が、整合性を示しているからといって、それが唯一正しい解釈と考えることはできないのです。
- しかし、ある解釈がどこかの記述と不整合である場合には、その解釈は破棄されなければならないのです。
「わかったつもり」という状態が、「読み」を深めるための大きな障害になること、そして、より細やかな文脈を駆使して「わかったつもり」に当たれば効果があること、どのようなときに「わかったつもり」になりやすいかを知っておくこと、「読み」を深める上で読み手の「想像・仮定」が欠かせないのだが、それには整合性という条件が存在すること、以上が本書の概要です。
読むという行為の一つの側面にスポットを当てたに過ぎませんが、そのような側面が存在すること、そして「読み」を深めるための示唆を感じ取っていただければ、著者としてそれに過ぎる幸せはありません。(pp. 208-212)
とくにEの話が面白い。本書の中では、センター試験の問題を実例に挙げながら「妥当な解釈を問う」よりも、「不整合な解釈を見つけ出す」方が問題として「妥当」なのではないか、という話が出ています。たしかに。
英語教育には、どう応用できるんだろう。
- 事前に何に関する/どういう話かを知らせておくことで、生徒の「スキーマ」を活性化させることができるんだろう。
- これは今まで「スキーマ」という言葉では知っていたけど、今回の読書で肚落ちした感じがする。
- 同時に、「わかったつもり」を避けるために、答えるためにはしっかりと細部を読み込まざるを得ないような問題を用意しておけるとよいかもしれない。
実際に読解の授業をやり始めたら、このあたりのことはもっとずっと考えなくちゃだよなあ。
とにかく、面白い本でした。