さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

修論終わったーッ!!

お久しぶりですこんにちは。
昨日が修士論文提出締め切りで、無事出しました。(やったね!)
本当は8(木)のうちに出したかったんだけど、うまく行かず。
というかクオリティ上げるつもりならもっと早くからやればよかったし、
気にしないなら気にしないで出しちゃえばよかったのに、と思う。
こういうところが本当に中途半端だよなあ、と。
(ただ正直木金あたりは自分のやりたいことを一部始めてました。
そのうちの一つ、この2年で集めた英語関連リンク集は近日公開予定w
あと英語関連の蔵書リストも作っておきたいな。ブクログでいいかしら。)

修論のタイトルは、

高校英語教員の実践知の研究―その拡張および実践との関係―

です。題目提出の時に何もできてなさすぎて、このような絞れていないものになってしまいました。汗

研究に協力していただいたのは、2名とも30代、前職有り、2年目の公立高校の先生です。
一人は偏差値60くらいの進学校、もう一人は定時制高校と、かなり対照的でした。
結論としては、「教員は生徒理解を基に授業への省察を行い、授業改善を行なっていく。しかし生徒理解を得るソースや、省察を行う観点などがそもそもそれぞれの置かれた文脈に強く規定されている」というものです。
…先生方からしたら至極アタリマエ過ぎますね。
言い訳に言い訳を重ねて非常に情けないけど、質的研究から何か「目新しい事実」を引き出すのはとても難しいと実感した。
ただ同時に、この研究を始める前の自分が思ってないことを今思っているから、そういう意味で自分のためにはなったろうな、と。(「学術界には?」「あハイすみません…」)

なんというか、自分もちょうど今年から非常勤を始めていて、「思ったよりできること少ないなあ」と感じていたのが、ストレートに「『文脈』への執着」という形で反映されているなあと思います。
あり得ないけど、数年後の自分が同じデータを見たら、きっともう少し面白い観点で「分析」できるんじゃないかと思います。

恥をさらすためにも、修論要旨を以下に置いておきますorz

問題と目的
 本研究の目的は、2年目の高校英語教員2名にご協力いただき、彼らに対する授業観察・インタビューをデータ収集の手段としながら、高校における英語授業の構想・実施・省察のサイクルを詳述することによって、高校英語教師の実践知の、経時的な拡張過程、および実際に教室内で行われた実践との関連を深く理解することである。具体的な研究上の問い(RQ)は以下の3つであり、分析1から3がそれぞれ対応している。
RQ1:研究協力者の、初年度終了時の実践知はどのようなものか
RQ2:研究協力者の授業内の実践行動(の一部)は経時的に変化するか
RQ3:研究協力者の実践知は、何によって/どのように拡張していくか


先行研究
 本研究の目的(とその重要性)、本研究が採用する分析方法、本研究において重要ないくつかの語の定義、の3点を明確にするため、先行研究を概観した。その際、以下の4つの観点、すなわち、「実践知の研究」、「教師研究の系譜」、「英語教師研究」、そして「質的研究の方法論」に大別して整理した。
 実践知の研究は、幅広い職種で行われている。その概念図(金井・楠見、2012、p.28)は非常に汎用的である反面、個別の職業においては完全には適合し得ないことが示された。
 教師研究に関しては、主要な概念として「授業のための教科内容知識(PCK)」を検討した。教員養成課程等でも学習される、一般化された「教科内容の知識」と、個別具体的な生徒を想定した「授業を想定した教科内容知識」とに峻別している点は本研究の分析に好適だが、そうした「知識」を規定する要因(教員自身の信念や、学校・教室の置かれた文脈)に対する視点が欠落していることが指摘された。
 英語教師研究に関しては、主要な概念として「言語教師認知」を検討した。文脈要因や情意面まで含め、広範に言語教師の認知を捉えようとしているものの、やや細分化されすぎており、そこに含まれる全ての概念を本研究においても研究することは不可能と判断した。
 今回の整理の結論として、本研究における「実践知」は、基本的にはPCKを中核に据え、そうした知識を得る手段として、「言語教師認知」を参考にしながら、教員自身の信念や文脈要因を考慮することとした。最終的には「実践知」と対照することで、教職と他の職業との共通点・相違点について考察することを目指す。


分析概要
 3つの分析全てに共通する、研究協力者の基礎情報(表1)や、データ収集方法をまとめる。I先生の授業に関しては、4月から10月に授業観察を行なった。教室右側後方の椅子に着席し、フィールドノーツを取った。I先生の胸ポケットに入れたマイクや教室後方のビデオカメラによる録音・録画も行なった。授業内外を通して生徒と関わることはほとんどなかった。
 Y先生の授業に関しては、4月から7月まで授業観察を行なった。I先生と同様の方法でデータを収集したが、こちらは授業への積極的な参加が求められたため、分析者自身もペアワークの相手を務めたり机間巡視を行なったりと、I先生の授業と比べると積極的に授業に参与した。
表1

I先生 Y先生
性別・出身・生年 男性・鹿児島県・1980年 男性・兵庫県・1985年
前職 システムエンジニア5年半→青年海外協力隊2年 貿易会社5年
学校教員歴 2年目(1年目に関しては備考参照) 2年目(本校勤務も2年目)
勤務校 南関東圏公立高校(全日制)偏差値60台 南関東圏公立高校(定時制
担任 高1学級の副担任 高2学級の担任
校務分掌 教務 進路
部活動 バレー部顧問 テニス部顧問
筆者訪問曜日 火曜・金曜(9月・10月は火曜のみ) 月曜
筆者観察授業(観察学級数) ①高1 コミュニケーション英語I(2)・②高1 英語表現I(1) ③高2 英会話基礎(1)・④高3 ステップアップイングリッシュ(1)
観察授業数/全体(1学級・1週当り) ①2コマ/4コマ・②1.5コマ/2コマ ③2コマ/2コマ・④1コマ/2コマ
総観察授業数 ①17コマ(1-4)18コマ(1-7)・②10コマ ③11コマ・④9コマ
総インタビュー回数 59回 11回
時間割備考 本校は2種類の週が設定されており、週によって時間割が異なる。②に関してI先生はもう1学級担当されているが、そちらは観察対象外 ③・④ともに、学校設定科目
備考 塾でのアルバイト経験6年以上・前年度、臨時的任用教員として同都道府県内別公立高校に勤務

 両名とも民間企業での勤務経験があり、既に1年間学校での勤務を終えた30代男性であるという点では共通している。ただしこの「民間出身」という経歴が両名の実践に明示的に多大な影響を与えているとは考えられなかったため、本研究は高校英語教員に対する広範な転移可能性を有するものであると判断した。


分析1: 一学期前インタビューによる既有実践知の構造化(SCAT)
 授業観察開始前のインタビューを対象に分析を行なった。各教員の経歴をライフストーリーという形でまとめた後、初年度の経験に関する語りから、SCAT(大谷、2011)を用いて、初年度を終えた時点(すなわち本年度開始時)の各教員の「実践知」を、「ストーリーライン」の形でまとめた。
 紙幅の都合から全てのストーリーラインを記載することはできないが、初年度当初は両名とも、自身が習ったとおりの、いわゆる「文法訳読式」の授業を行なっていたこと、生徒の反応が授業改善を志す契機であったこと、英語授業の規範として英語使用を増やすことが望ましいと考えていることなどは共通していたものの、具体的な授業の改善点として、I先生は授業の時間配分、Y先生は英語使用率の向上に言及していた点が主要な相違点であった。


分析2: 授業構成の量的分析(シークエンス毎の発話コード分析)
 分析1から、I先生の授業の変容が時間配分という点で起こる可能性が示唆されたため、両教員の授業を、15秒ごとにサンプリングして発話のコーディングを行なった。全ての授業を観察した分析者が、「発話者」、「宛先」、「使用言語」、「発話役割」の観点から、帰納的にコードを設定しコーディングを開始した。新たなコードが必要と判断した場合は以前の分析の関連箇所も改めてコーディングした。
 I先生の授業において「意見/反論/不満の表出」という、Y先生のコーディングにおいてみられなかったコードが発見されるなど、お互いの授業スタイルや生徒の特性を量的に示した。
 経時的な変化をみたところ、I先生の授業は何も発話していない待機時間や授業の手順を説明している時間が減るなど、時間配分の点で変化が見られたが、英語使用率については大きく変化していなかった。一方Y先生の授業は、時間配分の面では大きな変化はみられなかったものの、英語使用率において向上がみられた。これは分析1において自身が語っていた授業改善と符号するものであり、両者の語りが裏付けられた形となる。


分析3: 授業前後インタビューによる実践知の拡張過程(カテゴリ分析)
 授業前後のインタビューや学期後のフォローアップインタビューに頻出するカテゴリについて、実際の授業場面と組み合わせながら解釈した。その結果、I先生の授業実践においては、生徒理解と指名とが相互に関連しあっていること、生徒理解を深める際に授業外の情報が役立っていること、所与の教材やカリキュラムの強い制約の下で、自作教材を用いて自身の狙いを達成しようとしていること、学校の地域における立ち位置を知ることで自身の実践が規定されることなどが実証的に示された。
 Y先生の授業実践においては、分析2でもみたように、生徒が授業中に率直な意見表明をするという学校固有性から、そうした生徒発話を、生徒との人間関係構築や生徒の言語習得に結びつけようとする教員の試みが明らかとなった。また、文法指導への課題意識が、初年度は授業運営の難しさとして表出されたが、2年目の本年度には生徒の言語習得面での懸念として表明されており、Y先生の意識が生徒の言語習得に向き始めたことが示された。
 両教員の対照から、教員の授業改善を支える省察が、どういった点について行われるかに関しては、教員の置かれた文脈が規定要因となっている可能性が示唆された。


まとめ
 本研究は、I先生とY先生という2名の2年目高校英語教員を対象とした授業観察・インタビューから、以下のような知見を得た。
 分析1では、英語の授業を英語で行うという規範に対して、海外経験を背景に、両教員が肯定的な意識を持っていることが示された。そして、初年度の授業改善として、I先生は授業の時間配分、Y先生は英語使用に主に言及しているという違いがみられた。これをさらなる検討課題と捉え、分析2および分析3を行なった。
 分析2では、分析1において示唆された時間配分の変化や英語使用率の向上といった変容が今回授業観察を行なった期間においても確認されることを量的に示した。
 分析3では、I先生が時間配分の面で授業を改善し、Y先生が英語使用の面で授業を改善したという違いが、単なる個人差としてのみならず、両者の置かれた文脈に規定されたものであるとも考えられることを示した。
 本研究の課題としては、分析枠組みを精緻にすること、生徒の反応にも目を向けること、より多くの研究協力者を得ること、反例を適切に処理することなどが挙げられる。


参考文献
大谷尚.(2011).「質的研究シリーズSCAT:StepsforCodingandTheorization–明示的手続きで着
手しやすく小規模データに適用可能な質的データ分析手法」『感性工学』10(3):155–160.金井壽宏・楠見孝(編).(2012).『実践知―エキスパートの知性』東京:有斐閣.