さんだーさんだ!(ブログ版)

2015年度より中高英語教員になりました。2020年度開校の幼小中混在校で働いています。

日本におけるALTに関する先行研究とその問題点

※本稿は、2013年度夏学期火曜2限「グローバル化と学校教育」の最終レポートとして提出したものです。
※本文8,600字ちょっとと、わりと長めです。
※正直グローバルはこじつけで、先生も「修論のためのレビューに結びつけてくれたら」的なことをおっしゃっていたので、お言葉に甘えました。笑
※生き恥をさらすことになりますが、それもきっと大事なことですよね…。お手柔らかに。

1 本稿の目的

 本稿の目的は、教育のグローバル化を考える際に極めて重要である英語教育の中でも、特に諸外国との交流が直接的に関係している部分であるALT(Assistant Language Teacher)の存在に焦点を当て、日本における先行研究を具体的に検討しながら、その問題点を指摘することである。

2 なぜALTに着目するか

 今回の授業で扱った"Globalization of Education" には、種々のネットワーク(世界銀行を始めとした国際機関や、INGOs、さらには宗教機関など)によって教育の平準化が進展している現状が、豊富な具体例とともに示されていた。そうした平準化に対する解釈としては、1.唯一最良の教育実践へと収束していくものとしてポジティブに解釈する世界文化理論、2.平準化は、経済的・政治的圧力を背景にした中心国からの押し付けであり、周縁国の地域性・個別性を損なっているとネガティブに解釈する世界システム論・ポスト植民地主義、さらには、3.そのどちらにも汲みせず、単に教育の借用が行われているだけだとする文化理論、などがあった。
 教育の平準化の進展において、世界共通の言語を持つことは非常に重要であるが、そうしたリンガ・フランカとして現在最有力なのが英語なのは疑い得ないだろう。近年日本でも英語教育への要請が高まっており、その中でも特にALTは、その提供母体であるJETプログラムの拡充が、自民党の「教育再生実行会議」の第三次提言の中で言及されるなど、今後増えていくことが予想される。
 本稿におけるALTとは、次節で詳しく取り上げるが、JETプログラムの下に来日し、日本の小中高において指導を行う外国人のことである。外国人と接することが少ない生徒にとっては、異文化理解の貴重なリソースであり、authenticな外国語に触れるという点で、生徒の言語習得にとっても良い影響を与えていると考えられる。
 しかし、そういった教室内でのALTの働きと同時に考えなくてはならないのは、母体であるJETプログラムが、総務省・外務省・文部科学省などの協力の下に成り立っている国家的な事業であり、外国人を招聘する際の費用は、渡航費を含めほとんど全て日本側の団体が支出しているということである。すなわち、毎年多額の資金をかけて外国語教員を国家的に雇っているのであり、これは今回の授業で扱った、教育輸入の一形態ともみることができるだろう。
 以上みてきたように、ALTは教室場面をミクロにみることで生徒の言語習得に与える影響をみることもできるが、教育政策の一部としてマクロにみることもでき、そのどちらもの視点が、教育のグローバル化という今回の授業で扱った論点に直結しているように思われる。これが、今回本稿がALTに焦点化した論考を行う理由である。

3 ALT関連基礎情報

3.1 ALTとは

 ALTとは、「Assistant Language Teacher」の略称であり、日本人英語教員の補佐役として、日本人教員とのティームティーチング・教材準備・生徒との課外活動参加などを行う外国人のことである。JETプログラム(次節参照)に基づいて、各地域の学校に派遣されるALTは、JET ALTと呼ばれ、それ以外の民間の会社等を通じて派遣されるALTは、non-JET ALTと呼ばれる。文部科学省(2010)によれば、JET ALTを活用している都道府県・指定都市・市町村の数はそれぞれ、44・13・914であるのに対し、non-JET ALTを活用しているのは同じく、21・19・1,032である。具体的な人数は不明だが、自治体数でみればほぼ同数と言うことができるだろう。non-JET ALTの雇用・契約形態は様々であり*1、把握が困難であるため、本稿では、以後特に指定のない場合はALTという単語でJET ALTを指すものとする。

3.2 JETプログラムとは

 JETプログラムとは、「The Japan Exchange and Teaching Programme(語学指導等を行う外国青年招致事業)」の略であり、総務省・外務省・文部科学省および財団法人自治体国際化協会(Council of Local Authorities for International Relations: CLAIR)の協力の下、地方公共団体が実施している事業である。確認しておくべきなのは、あくまで上記団体は連絡調整をするのみであり、ALTが直接的に雇用契約を結ぶのは、地方公共団体の中の組織(多くは教育委員会)である、ということだ。以下に、JETプログラム実施に係る組織の関係図を示す。

図1 JETプログラム実施のしくみ(CLAIR(2010))

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 JETプログラムの目的は、CLAIR(2010)によれば、「海外の青年を招致し、地方自治体、教育委員会及び全国の小・中学校や高等学校で、国際交流の業務と外国語教育に携わることにより、地域レベルでの草の根の国際化を推進すること」である。
 JETプログラム参加者の中には、ALT以外にも、CIR(Coordinator for International Relations: 国際交流員)およびSEA(Sports Exchange Advisor: スポーツ国際交流員)という職種に就く者もいるが、2013年7月1日現在のJETプログラム参加者4,372名のうち、9割を超える4,000名がALTであるため、本稿ではALTのみを扱うこととする。また、JETプログラムの応募資格は、日本との交流の意思が重視されており、語学教員としての資格・経験は、あれば選考に有利になるものの、特に必要とされていない。
 JETプログラムは1987年より開始されたプログラムであり、27年目となった今年までで、のべ62か国から55,000人以上が参加している。今年の4,372名の内訳を国別にみると、アメリカから54.0%、カナダから11.1%、イギリスから8.9%、オーストラリアから6.9%、ニュージーランドから5.8%、アイルランドから2.3%、南アフリカから2.3%、中国から1.8%、韓国から1.5%となっている。
 また、JET ALTの人数を都道府県別にみると、上位3位は、兵庫県(323名)・北海道(250名)・長崎県(166名)であり、下位3位は、神奈川県(3名)・愛知県(9名)・東京都(10名)である。以上のように非常に大きな地域差がみられ、その一部は在留外国人数の違いで説明できる*2と考えられるが、兵庫県は在留外国人数も10万人弱で全国第7位と多いのにも関わらずJET ALTも多く雇っていることから、在留外国人数だけでは全てを説明することができないこともわかる*3
 JET ALTの任用期間は1年であるが、任用団体と参加者の双方が希望した場合は、2回を限度として再任用が可能である。また、出発前オリエンテーション、来日直後オリエンテーション、ALT指導力向上研修、JET終了前研修など、日本文化に関するワークショップや、外国語指導に関する研修が、総務省・外務省・文部科学省・CLAIRによって準備されている。
 以上見てきたように、JETプログラムおよびJET ALTは四半世紀を越える長い歴史を持ち、日本の英語教育に少なからぬ影響を与えている。そこで次節では、JET ALTを対象とした研究を概観していく。

4 具体的な先行研究の検討

4.1 分類対象論文の収集方法

 本稿の目的は、過去に行われたALT関連研究を網羅的に概観することであったが、文字通りに全ての研究に目を配ることは実質不可能であるので、今回は、CiNiiにおいて「ALT」および「AET*4」のキーワードで検索した2,077件を目視で全て確認し、ALTが研究対象の中心に据えられている69件を抽出し*5、その中からさらにPDF等で本文を確認することができた51件を分類の対象とした。以下、上記の5分類について、代表的と考えられる論文を紹介しながら、主な知見をまとめていく。また、本文中で言及するしないに関わらず、参考文献リストには、今回対象とした51件を全て掲載した。

4.2 分類の指針

 本節では、ALTに関して行われた先行研究を整理する。大谷(2007, p.112)は、「ALTと日本人教員間に影響し得るマクロ的・ミクロ的要因」として、以下のような図示を行なっている。

図2  ALTと日本人教員間に影響し得るマクロ的・ミクロ的要因(大谷(2007))

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この図を参考に、ALTに関する論文を、どういった点に着目しているかに応じて、下記の6ジャンルに分類することとする。

  1. ALT個人(主に、インタビュー・参与観察などの質的研究)
  2. ALT集団(主に、質問紙調査などの量的研究)
  3. 日本人教員・ALT間の関係
  4. 生徒・ALT間の関係
  5. JETプログラムという制度自体
  6. ALTに関する理論的論考

分類は、主に要約を読むことで行われ、必要に応じて本文を参照した。また、複数のジャンルに分類される論文もあったことを付言しておく。

4.3 ALT個人に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、ある特定の教室・ALTなどに着目し、対象を詳述するような研究である。たとえば白畑ら(2011)は、ALTであるMの、小学校外国語活動における発話を分析し、Mが中学校レベルの簡単な英語を使って活動を行なっていることから、小学校教員も自身の英語力不足を恐れすぎず、中学校レベルの英語を学び直すことを提案している*6
 しかし、こうした研究は、あるALTの「授業」に着目するものがほとんどで、すなわち発話の頻度分析などから量的研究になりがちである。あるALTの「生活全般」に授業内外問わず密着したような質的研究は今回1件も見当たらず、今後これが問題になってくるようにも思われる(第5節参照)。

4.4 ALT集団に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、多数のALTに対して質問紙調査などを行うことで、全体の傾向を把握しようとするものである。たとえば佐藤(2012)は、学校や教育委員会を対象にしたニーズ調査に基づき、ALTが理解する必要のある日本語語句をリストアップしている。他にも築道ら(1999)は、異文化葛藤場面に対するALTの反応を質問紙で調査している。こうした研究はしばしば、JETプログラム研修の向上・改善を志向していることが特徴である。

4.5 日本人教員・ALT間の関係に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、日本人教員とALTとの違いや両者の関係に着目した研究である。たとえば金子(1991)は、日本人教員とALTとのクラス内発話の違いを分析し、それが生徒にどういった異なる印象を与えているかをアンケートによって調査した。
 また、授業とは直接関係ない部分での日本人教員・ALT間の違いを分析した研究もある。たとえば佐々木(1996)では、「情報要求方略」の違いが分析されているし、室井ら(2010)では、ALTに対するアンケート調査結果から、日本人教員・ALT間のミスコミュニケーションの類型を行なっている。授業外での人間関係は当然授業の質に大きな影響を与えるため、こうした研究も意義深いものと言える。
 同時に、ALTとのティームティーチングを通して、日本人教員の考えがどう変わったかを調べた猪井ら(2002)のような研究もある。その結果によれば、日本人教員はコミュニケーションの重要性・自身の英語力向上の必要性を感じるようになったという。ALTは、このように日本人教員に影響を与えることで、間接的にも日本の英語教育に影響を与えていることがわかる。

4.6 生徒・ALT間の関係に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、ALTの存在が生徒にどのような影響を与えているかを分析した研究である。たとえば上垣(2003)は、高校生の情意面に与えるALTの影響を、生徒への質問紙調査で把握しようとしている。その結果、ALTと日本人教員とのティームティーチングを受けている生徒と日本人教員のみに教わっている生徒とを比べても、授業に対する不安度に差はみられなかったという。また、足立ら(1996)は鳥取県東部の中高生へのアンケート調査を元に、生徒がALTの授業に対してどういう感想を抱いているかを分析している。
 このジャンルに分類される研究の問題点としては、しばしば生徒がALTの授業を楽しんでいるかなどをアンケート調査で把握することで終わってしまい、それが言語習得につながっているのかどうかがしばしば置き去りにされるということだ。その点で、ALTの先生のいる授業を多く受けた生徒は、そうでない生徒に比べてリスニング能力が高いことを示した上垣(2004)は意義深いと言える。

4.7 JETプログラムという制度自体に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、制度自体に着目した研究である。たとえば古川(2000)は、日本教育行政学会年報に収録されていることからもわかる通り、JETプログラムを教育行政の一端と位置づけた上で、その立案過程を調べたものである。奥貫ら(2012)も、労働者としてのALTを扱っているという点で、このジャンルに分類できる*7
 また、特定地域におけるALTの勤務実態を調査するのもこのジャンルに分類できる。たとえば江草(2006)では、北海道の宗谷管内および離島におけるALTの勤務実態調査を行なっている。脚注3でも簡単に触れたが、ALTには地域格差の問題が潜んでいる可能性があり、こうした各地でのケーススタディによってそれが明らかにされることから、こうした研究の積み重ねは必要であると考える。
 さらに、小村(1989)や仲(2006)など、制度の根本的な見直しを図るよう主張する論考もある。前者はAETと日本人教員とのティームティーチングが不必要であり、AETに対して専門的な教育を施すよう制度を変えることが必要だと主張し、後者は英語帝国主義的な観点から、ALTが実質AETとなってしまっている現状に警鐘を鳴らしている。

4.8 ALTに関する理論に着目した研究

 このジャンルに分類されるのは、ALT(を活用した授業)がどうあるべきかを、なんらかの理論を背景に提示している研究である。たとえば伊東ら(1996)は、CLT(Communicative Language Teaching)とculture teachingの概念を導入し、それを体現する理想のTeam Teachingのあり方を提言している。他にも、清水ら(1990)は、インプット理論という第二言語習得論の中の理論を参照しつつ、ALTとのティームティーチングのあり方を具体的に述べている。
 また、指導法に関する理論のみならず、TESOL(Teachers of English to Speakers of Other Language)という分野でよく用いられるNEST(Native English-Speaking Teachers)とNon-NESTとの二項対立を用いつつ、日本人英語教員の長所について議論しているMURAHATA(2001)などの研究もある。

5 先行研究の問題点

 前節では、ALTに関する先行研究を、6つのジャンルに分類して概観した。その上で本節では、その問題点と考えられる点を2点指摘し、今後の研究への足がかりとしたい。
 1点目は、個人のALTに寄り添った質的研究がほとんどない、ということだ。ALTの生活・業務上の問題点を探る研究では、多数のALTに対して質問紙調査を行うことが多いが、それだけではすくい上げられない問題点があるだろう。そう考えるのは、日本においては、NESTであるALTの方がマイノリティであると思われるからだ。
 先に述べたTESOLという分野でしばしば取り上げられる、NESTとNNEST(Non-Native English-Speaking Teachers)との間の葛藤を扱う研究では、NNESTを対象とするものが多い。その主な「ストーリー」としては、「NNESTが、自身の非母語話者性に悩み、自身を英語教員として周縁的な存在であると位置づけて自信を失っていたが、『理想の英語教員は、英語のネイティヴスピーカーである』というのが “Native Speaker Fallacy”と呼ばれていることを知り、自身の強みを再認識することで自信を取り戻していく」というものである。こうした研究は、NNESTのempowermentとして一定の効果があるものの、日本ではあまり聞かれる話題ではない。その理由として考えられるのは、日本の英語教員は圧倒的多数がNNESTであり、NESTがあくまでALT(ASSISTANT Language Teacher)として周辺的な役割のみ持たされているということだ。日本人英語教員は、自分たちが圧倒的多数派であるため、非母語話者であろうが自身の英語教員としての正当性を疑うことは少ない、と考えられる。
 これを逆に言えば、日本の英語教育においては、NESTの方がマイノリティであり、自身の母語話者性と、実際に与えられた裁量とのギャップに悩んでいるALTも多いのではないだろうか。そうした「抑圧」が想定される場合、質問紙調査のみではそれを十全にひろい上げることは難しいだろう。少数のALTに密着することで関係性をつくり、彼(女)らが抱く様々な葛藤を丹念にみていくことができれば、JETプログラムのさらなる改善の一助とすることができる。
 2点目は、生徒の言語習得に与えるALTの影響に関する研究が少ないということだ。たとえば上垣(2004)は、ALTの授業を受けている生徒のほうがそうでない生徒に比べてリスニング能力が高い傾向にあることを示しているが、ALTによる授業のどんな部分が生徒のリスニング能力向上を促しているかははっきりしない。
 先行研究の問題点の1点目として、日本の英語教員は自身の非母語話者性への葛藤を示すことは少ないと述べたが、それでも非母語話者性に全く悩んでいないわけではなく、今後そうした葛藤がより鮮明になっていくことは考えられる。というのも、小学校での外国語活動が5・6年生で必修となり、高校の学習指導要領に「(英語の)授業は英語で行うことを基本とする」という文言が入ったことで、教員が生徒の前で英語を話すことが推進されつつあるからだ。それゆえ、自分の英語に自信が持てずに悩む教員は多くなることが予想される。そんな中で、ALTの母語話者性のどういった部分が生徒の言語習得に影響を及ぼすのかを実証的にみる研究が必要になるだろう。
 たとえば、「自分は非母語話者だから、英語を話せと言われると3単現のsが落ちる」と心配する教員がいるとして、その3単現のsが落ちた状態での英語発話と、ネイティヴスピーカーの話す完璧な英語発話とが、生徒にそれぞれどう受容され、生徒の英語習得(ここでは3単現のsの習得)にどのような影響を与えるのかを実証的に示す研究は見当たらない。こうした細かな実証研究を積み重ねていくことで、「自分は非母語話者だから」と漠然と英語を話すことを恐れるのではなく、「自分は非母語話者だからこの部分はネイティヴに任せるが、それ以外の部分では多少間違っても生徒に悪影響はないと考えられるので、自信を持って指導を行う」というふうに状況が変わっていくのではないか。

6 結論および本稿の課題

6.1 結論

 本稿では、まずALTおよびJETプログラムについて概観した後、これらに関わる先行研究を、手順を示しつつ収集し、大谷(2007)を参考にしながら6つのジャンルに分け、それぞれの研究の形式・知見を整理した。
 そこで見えてきた問題点から、今後は、1.個人のALTに密着した質的研究、2.ALTのもつ母語話者性のどういった部分が生徒の言語習得に影響を与えているのかをミクロにみる研究、の2点を行うことで、日本におけるALTのさらなる活用法がみえてくるように思われる。
 冒頭に述べたように、ALTは、教室内というミクロな視点でも、教育政策というマクロな視点でも、日本の英語教育に影響を与えてきており、それは今後いっそう大きくなっていくことが予想される。ALTに対してより精緻な研究が行われることで、日本の英語教育を改善し、ひいては教育のグローバル化に対応できるようにしていくことが今後望まれる。

6.2 本稿の課題

 本稿では、ALTに関して行われた研究を網羅的に分析することを試みたが、いくつかの限界が考えられるので、それを最後に指摘しておく。
 まず、対象をJET ALTに絞ったことは、民間会社等から派遣されるnon-JET ALTをまったくみていない点で問題があると言える。JET ALTとnon-JET ALTの違いをみることも、JETプログラムの存在意義を考える上で必要であることにくわえ、脚注3などで少し触れたように、両者のどちらを雇うかの選択には、地域の経済格差が反映されている可能性があるため、より詳細にみていくことが必要だろう。
 次に、今回はCiNiiだけで検索したために、みえている範囲が狭まっている可能性は指摘できる。今後は、今回扱った研究の参考文献などから、芋づる式に過去の論文を収集していくこととする。
 また、先行研究のジャンル分けに関してもまだ包括的ではなく、分類が難しい研究も多々あったため、今後さらなる精緻化が必要だろう。
 さらに、結論で挙げた2種類の研究は、非常に実行が困難であることも事実である。前者においては、密着した調査をさせてくれるALT協力者を探すことがそもそも困難であり、関係性をつくっていくことも難しいだろう。そして後者に関しては、生徒に与える影響をみるための精巧なリサーチデザインが必要になってくる。しかし、それを勘案してもなお実行されるべき研究であるため、今後その実行のために注力していくこととする。

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  • 山戸田孝則,1999,「ALT,JTEがEFL中学生との対話の中で用いるインタラクションの修正の特徴」『関東甲信越英語教育学会研究紀要』(13): 25–37.
  • 吉田一衛,1991,「Team TeachingにおけるNative SpeakerとNon-Native SpeakerのNegotiation(ティーム・ティーチング)」『ARELE : annual review of English language education in Japan』2: 147–157.
  • 渡辺時夫,1990,「外国人教師と協同授業を生かす道(Team -Teaching)」『ARELE : annual review of English language education in Japan』1: 125–134.

*1:文部科学省(2010)によれば、直接雇用・派遣契約・業務委託契約などがある。

*2:たとえば東京都は在留外国人数が40万人近くと第一位であるため、JETプログラムを使うことなくALTを雇うことができるだろうが、反対に長崎県は7,000名程度で全国第35位と少ないため、JETプログラムの力を借りないとALTを十分集めることが難しいのかもしれない。

*3:本稿ではこれ以上この問題に踏み込まないが、JET ALTはnon-JET ALTと比べ高額の費用がかかることが知られている(仲(2006), p.23)ことをふまえると、仮にJET ALTに頼らざるを得ない都道府県および自治体があるとするならば、そこには経済的負担の面で地域格差が生じていると言えるだろう。

*4:当初ALTはAET(Assistant English Teacher)と呼ばれていたが、フランス語・中国語などの教員もJETプログラムが扱うことになり、ALTという呼称に現在では落ち着いている。ただし、たとえば平成12年度ALT招致人数5,467名中5,444名が英語のALTと、99%以上のALTが英語を教えるAETとなっている。

*5:「ALTの安定化を目指した少量ペグインターフェロンリバビリン併用療法の試み」など、医療関係の論文が多くヒットしたため、件数は当初に比べ非常に少なくなっている。

*6:もちろん、中学校レベルの英語だからといって、生徒の前で自信をもって使えるレベルにすぐ到達できるわけではないので、この提案が現場にどう受け入れられるのかは非常に興味深いところではある。

*7:ただしこのジャンルに分類される研究は数が少ないようで、『日本教育政策学会』『教育行政学研究』という日本の教育行政におけるメジャーな学会誌において、JETもしくはALTもしくはAETというキーワードで検索を試みたが、1件もヒットしなかった。